NIKKEI NET:社会ニュース(2002/02/20)から

死刑「やむを得ない」、最高の81%・内閣府世論調査
 
 内閣府は19日、「基本的法制度に関する世論調査」の結果を発表した。死刑制度について「やむを得ない」とする容認派は81.4%で、1999年の前回調査に比べて2.1ポイント増え、過去最高となった。これに対し「どんな場合でも廃止すべきだ」と答えた人は前回調査に比べ2.8ポイント減少し6.0%だった。

 容認派が8割を超えたのは1956年の調査開始以来初めて。内閣府や法務省は子供が被害に遭うなどの凶悪事件が相次いでいることが背景にあるとみている。

 容認する理由(複数回答)については「凶悪な犯罪は命をもって償うべきだ」(54.7%)がトップ。「(死刑を)廃止すれば凶悪な犯罪が増える」(53.3%)、「廃止すれば被害を受けた人や家族の気持ちがおさまらない」(50.7%)が続き、いずれも前回に比べ増加した。一方、反対派に理由(複数回答)を聞いたところ、「生かして罪の償いをさせた方がいい」(50.4%)が最も多く、「裁判に誤りがあったとき、取り返しがつかない」(39.0%)など冤罪(えんざい)の可能性を指摘する人も微増した。 (19:04)

■「内閣府世論調査」ってのは、正式名称「基本的法制度に関する世論調査」だが、この「基本的法制度」では、事実上刑事法だけのようだ。■ちなみに、これをサイトとして公表している内閣府大臣官房政府広報室世論調査担当」ってところは、「本概要の内容を引用された場合,その掲載部分の写しを下記あてにご送付ください」とことわっている。どんなふうに利用されているのか、関心があるし心配なんだろう。ま、心情はよくわかるが、内容を引用するわけじゃないんで、うつしをおくったりはしてやらない(笑)。
■各新聞社のネタになったのは、「2.死刑制度の存廃」ってヤツだ。

■死刑廃止に理解をしめすがわがたびたび主張したきたとおり、主要先進国で死刑制度を存続させているのは、日本とアメリカぐらいになっている。だからといって、「日本も世界のながれにそって死刑を廃止すべきだ」という論理はたてない。■なぜなら、この論理は「世界のほとんどは、国軍による自衛をおこなっているし、自衛戦を当然視している。日本も『普通の国家』として自衛戦(ないし国益や国際貢献のための軍事行動)をになえる軍隊をもつべきだ」というリクツをみとめてしまうことになるからね(笑)。
■とはいえ、世界の主要先進国がそろって死刑廃止にふみきっている動向に抵抗するかのようにふるまっているのは、「二酸化炭素排出量を制限することで、工業生産が打撃をうけるのはイヤだ」といいたてて、巨大な量をはきだしつづけている某超大国とにているといわれてもしかたがないのではないか? ■ともかく、死刑という制度は、戦争とおなじく、国家が殺人を合理化するものだから、慎重に議論しなきゃいけないだろう。「このばあいだけは、殺人がゆるされる」っていう限度設定権を国家がにぎっているってことは、自殺幇助や安楽死と同様、たいせつにあつかう必要がある。

■さて、「死刑廃止と死刑存置の考察」というサイトを発見した。なかなかかんがえさせられるページである。
■世界的な人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルの調査をもとに、いろいろと興味ぶかい議論が展開されている。■論者は、?「死刑廃止国は多数になっている(117の国と地域が実質的死刑廃止、78カ国が死刑存置している)」、?「先進国で死刑存置しているのは日本とアメリカだけである(死刑存置論から言えば「確かに死刑廃止国は多数を占めつつあり、また先進諸国は死刑を廃止する傾向にあるがそれをもって死刑を廃止するべきとはいえず、内政に関わる問題であり、独自に判断すべきである」という反論くらいしか頭に浮かばなかった)」としつつ、「再度この表を見直してみた。その結果次のような疑問を覚えた」として、つぎのようにのべる。■「仮説1.EU諸国経済圏の影響下にある国家の多くは死刑廃止国ではないか?」「仮説2.NZ・豪経済圏の影響下にある国家の多くは死刑廃止国ではないか?」「仮説3.人口の少ない国家が死刑廃止国である傾向はないか?」「仮説4.先進国の死刑存置国は日本とアメリカだけか?」とする。なるほど、ちゃんとかんがえるべき論点ではあろう。
■特に仮説3について、「絶対的に人口が少ない国家の場合、死刑相当の犯罪が発生する確率が相対的に極めて低い」。「特に欧州の生産性の高い小さな国家では集中して高度な安全保障対策を取ることもできる」。「欧州で人口100万人以内の極小国は」「9カ国(合計約200万人)」で、これらが「全て死刑廃止国である」。「これらの国と中国(12億8,543万人)・インド(10億2,702万人)などの大国を同等に比較することに意味はあるのだろうか?(かといって人口で比較するべきだとするわけではない。)」「もし政治体系としての国数・地域数のカウントが大切である、とするのであれば、同一基準の法律をもつEU加盟国は1地域としてカウントすべきであろう。」という指摘は、もっともだ。
■また、仮説4について、「中国、大韓民国、サウジアラビア、シンガポール、台湾、アラブ首長国連邦等は発展途上国では無いと思われるが、ここで言う先進国とはサミット参加国ということなのだろうか?」とか、「先進首脳国の4カ国(英・仏・独・伊)は死刑に対して同一基準に基づき法制度を整備しているのであれば制度的には1カ国(もしくは1地域)とカウントするのが相当であり、またもしくは死刑存置地域を国数でカウントするのはあまり意味はないのではないか。どちらかといえば法制度的に各州が独立しているアメリカ合衆国の各州を50地域で評価したほうが適切であろう。ウィスコンシン州(1853年死刑廃止)とテキサス州(2003年執行数24件)が合わせて1カ国というのは抵抗がある」という指摘も同様だ。
■「死刑廃止」派は、こういった批判にまともにこたえる必要があるだろう。特に、数字をあげて説得力をもたせるといった論法が、かなり問題があることは明白だ。

■ただね、勉強にはなるが、いいがかりといえなくもないなぁ。■たとえば、「中国、大韓民国、サウジアラビア、シンガポール、台湾、アラブ首長国連邦等は発展途上国では無いと思われる」という指摘はただしいとおもうが、これらの国家体制が、人権に配慮した先進諸国といえるだろうか? これは、なにも差別ではなく、実際に人権上非常に問題のある諸国といわれている体制がたくさんふくまれているのではないか? 経済成長いちじるしく、人権状況も急速に改善しつつある地域がたくさん含まれていることをみとめるにはやぶさかではないけどね。
■それと、アメリカの50州が欧州以上に「法制度的に各州が独立している」というのであれば、ちゃんと自分で分類すればいいのに、と、ツッコミをいれようとしたら、ご本人がちゃんと、かいてらっしゃる(笑)。■合州国は50国とかぞえ、カナダは1国として、北米を「死刑廃止国 【政治区分】 14カ国( 26.9%) 【人口区分】 6,721万人( 21.6%)」「死刑存置国 【政治区分】 38カ国( 73.1%) 【人口区分】 24,412万人( 78.4%)」とね。■これは、EUを一国としてかぞえるといった操作とあわせると、「死刑存置」派がすこし元気づけられることは、たしかかも(笑)。

■ご苦労さんとはいいたいが、こういった作業の動機がなんのか、よーくかんがえた方がいいよね。ここには関係ないけど、「被害者家族の心情をかんがえろ」とかいう、部外者の意見もよけいだ(少数だけど、肉親をころされた人物が死刑廃止論者であるという実例はあるんだから)。要は「死刑存置がただしい」という根拠をさがしているだけじゃないのか?
■すでにかいてきたように、現代日本の殺人率(人口100万人あたりの殺人既遂者の1年間の数)は世界でもトップクラスでひくい。つまり、凶悪犯罪が世界のなかでとびぬけてすくなくて、安全なのだから、「極刑をもって抑止する」といった論理はとれないってことを、おわすれなく。■あと、「人間おいつめられたら、死刑制度あるなしなんて、ふっとんで、ひとごろしにはしります」とか、「なんとか、自分だけはみつからずに、にげおおせるんじゃないか、などと、ついムシのいいかんがえにとりつかれてしまう」といった、文学的普遍的経験則も、「抑止効果」論にとっては、難物だとおもうな。



【追記2005/03/03】■本文で「中国、大韓民国、サウジアラビア、シンガポール、台湾、アラブ首長国連邦等は発展途上国では無いと思われる」が、「これらの国家体制が、人権に配慮した先進諸国といえるだろうか? これは、なにも差別ではなく、実際に人権上非常に問題のある諸国といわれている体制がたくさんふくまれているのではないか?」とかいた。しかしハラナは、なにも現代日本が「人権先進国」だといいたいわけではない。■むしろ、日本はアムネスティ・インターナショナルなどから、「被疑者や服役者、一時収容者や難民の可能性のある人物に、非常に冷酷な体制」「人権侵害のうたがいが濃厚な、経済先進諸国のなかで突出して、意識がひくい空間」などと酷評されてきたことに、注意!■死刑容認派が8わりをこえる国民なんだから、相対的に人権後進国であるとかんがえた方がいいかもしれないね。イスラム圏とかをこわがっているけど、周囲の警察署とかにひっぱられたときの不安とか、イメージうかばないの(笑)?