■あすから、いわゆる愛知万博(公称「愛・地球博」)が開催される。きょうは開会式と前夜祭セレモニーがおこなわれるばかりでなく、「ナゴヤドームから万博会場まで深夜に歩く市民参加型イベント」である、「クリーン・イヴウォーク(会場外)まであるのだとか。すごいさわぎである。
■地元紙『中日新聞』はもちろん、環境保護運動などにも好意的な姿勢を維持してきたとおもわれる『朝日新聞』なども、地域面など、もろてをあげて協賛している感じをうける(たとえば、「asahi.com:マイタウン 愛知」の、「愛知万博企画特集」とか「[カウントダウン愛知万博] 開幕まで あと64日  眺望良好な来訪者との交流会場 」)などをみるかぎりね)。■おなじ朝日は、今週連載の特集「万博新世紀」(これは、地域により「総合」面/「社会」面の差はあっても、全国配信らしい)も、冷静な筆致であれ、けっして開催の意義自体に再考をうながすような議論は展開していない。きょう、おりこみにはいった2種類の別刷り特集の1面表題なんて、「遊ぶ学ぶ万博」「ふれあう万博」だし(笑)。■総じて、「めでたい万博だ。みんな、あしなどひっぱらずに、もりたてよう」という、ゆるい水準ではあっても、一種の「総動員体制」なのは、あきらかだとおもう。皇太子と天皇皇后の来場もふくめてね。小学生を学校をとおして動員しようってのにいたっては、安全意識がうたがわれる。■この時点でなお批判的な見解をおおやけにしたら、「まだ、そんなこといっているのか」といった、つめたい視線をあびそうだし、地域社会や関係者周辺では「非国民」あつかいをうけそうな、ふんいきさえ、うかがえる。
■しかし、おもいだしてほしい。成田空港建設にはげしい抵抗をしめした入植農民たちに対して、世間の大半は「過激派活動家によいしょされて、警官隊と死闘をくりかえすような、時代錯誤でコワイひとびと」といったイメージをはりつけた。でも、そののち、空港が世界的に機能しはじめて、もはやもとどおりの農業などもどるはずのない段階(建設用地決定から約30年後、開港から15年以上たってから)ではあったけど、1995年亀井静香運輸大臣が、土地収用にムリがあったと謝罪するというオチがついた(宇沢弘文『成田」とは何か―戦後日本の悲劇』岩波新書)。いい加減な土地収用計画をたてて「公共事業」を出発させて、地域社会を完全に混乱させ、おおくのひとの人生を激変させたあげく、今度は羽田を国際空港化して、不便な成田をすてろ、といった無節操な議論が浮上しているけど、「一度本格的にうごきだした巨体はとめられないから、抵抗するものは異常者」といった空気は、後世、きびしい審判をくだされるだろう。■もちろん、そうならないよう、大衆の忘却をうながすような歴史のねじまげが、「権力」によって、さかんにおこなわれるだろうけどね。

■たとえば、つぎのような記事をよむと、万博開催までの経緯に無関心だった層でさえも、問題がかくされていることにきづかされるだろう。■最近の話題は、もっぱら、事前の「内覧会」で露呈した交通アクセスの機能不全や入場者対策の不備による異常な混雑ぶり、「飲食物のもちこみ不可」という規制にまったく対応しない飲食サービスといった、主催者がわの無策・無能ぶりだが、そういった茶番劇など、たいした問題ではないようにさえ、みえてくる。

愛・地球博:3団体のシンポ欠席 “環境博”の理念は…???「協会は不誠実」
 ◇姿勢変化、強く批判

 環境を守るための博覧会ではなかったのか??。日本野鳥の会、日本自然保護協会、世界自然保護基金ジャパンの3団体が7日までに、愛・地球博(愛知万博)への不参加を決めた。一緒に、より良い万博を目指していただけに、「あまりにも不誠実だ」と、万博協会の姿勢に落胆が大きい。開催まであと18日になって、国内を代表する環境保護団体から突きつけられた疑問符に、協会はどう答えるのか。【山田大輔】

 海上(かいしょ)の森(愛知県瀬戸市)。その豊かな自然環境をどう保全するのかが、環境博をうたう愛知万博の試金石だった。

 3団体は99年、万博閉幕後に計画されていた宅地開発や高規格道路建設をやめ、万博の主会場を海上の森から別の場所に移すよう意見書を提出。これに沿う形で会場計画が見直されたため、00年に協会が設けた「愛知万博検討会議」に参加して、森の保全策を協会とともに考える道を選んだ。万博反対からの大きな路線変更だった。

 この延長で同年末、自然に負担をかけない会場設計や工法などを検討するモニタリング委員会が発足。03年12月までに計7回開催されたが、その後は開かれなくなった。

 絶滅危惧(きぐ)種のホトケドジョウの捕獲・移植の経過報告を求めて委員が繰り返し開催を要望した際も、協会は長く回答をせず、先月21日に初めて文書で行った回答は「会場整備の最終段階にあり、委員の皆様に会場を見ていただける状況にありません。整備終了後、委員会を開催し、現地視察をしていただく予定」と開幕前の開催を事実上、否定する内容だった。

 ホトケドジョウの移植について、愛知県は「災害などで種が絶えるのを避けるため移した」と主張、協会も「この問題は会場計画とは別」と説明するが、委員への回答を知った3団体は反発した。

 「極力自然に負荷をかけないで開催を実現するよう、使命を果たしてきた委員会が、最後になって1年以上も開かれず、工事がすべて終わって万博が開幕した後にようやく委員会を開くというのでは意味がない」

 環境保護のあるべき姿を、ともに模索してきた万博協会とは思えない姿勢の変化に3団体の批判は強い。日本野鳥の会の古南幸弘・自然保護室長は「決別するなら早い時点でしていた。万博協会の自然保護への取り組みを評価してきたからこそ、一緒にやってきた。市民参加をどう考えていたのか。こんな形で開幕を迎えるのは、残念でならない」と話している。
『毎日新聞』(2005年3月7日中部夕刊)

■同様の記事は、(分量は、ものすごくすくないが。笑) 『中日新聞』でも掲載された (「環境3団体は不参加 博覧会協会主催シンポ」2005/03/07)。■要は、「環境博」をうたった愛知万博なのに、おなじテーブルに一応ついていた環境団体から絶縁状をつきつけられたわけで、名実ともに「環境博」とはいかない内実、運営がかくされていることは、あきらかなわけだ。■で、実際、愛知万博には、ものすごい反対運動が展開されていた。たとえば、おととしのはるに更新がとだえてしまったが、「愛知万博中止の会」って団体まであった。≪すでに破壊が始まっている愛・地球博!どこに愛が?≫とかいうコピーとともに、建設中の開発画像をみせられると、これがもとどおりにもどるとは、到底おもえない。会場設営自体が、「公共工事」というなの巨大な自然破壊の一種にみえてくる。■ちなみに、反対派は影山さんという大学の先生をかつぎあげて、県知事候補にまでしたてあげてしまう事態にまで、いたった。以前紹介した岡崎勝さんはその運動の一角をになったひと。
■「愛知の貴重な里山を破壊して、自然との共生をテーマにした万博を2005年に開こうという愛知県の行政に反対する市民運動が起きた。そのリーダーが影山であった。
 そして、本年1999年2月7日に愛知知事選挙が行われる際に、反万博知事候補を出馬させようと、市民運動側が計画したのである。
 その候補が、影山先生であった。結果はオール与党候補神田真秋氏約135万3千票、そして反万博市民運動グループと共産党・新社会党支持の影山健は約79万6千票。投票率41.9%である。先生は、愛知県知事にはならなかったのである。
 先生は万博の是非を住民投票で!と住民投票条例制定に向けて市民運動を広げ、議会では多数決で否決された。その流れを止めないようにと、知事選へ突入したのだ……」というてんまつ(岡崎勝「スポーツ社会学研究の「研究」とは何か?」)。
■80万票にせまる批判票はすごいよね。

■そんななか、東大の吉見俊哉さんが『万博幻想
――戦後政治の呪縛(ちくま新書)という、これまたすごい本をだした。■大阪万博、沖縄海洋博、筑波の科学万博、そして、今度の愛知万博までを歴史的に検証するものだけど、ひとつのこらず、思想性や運営方法/理念とかいう次元でデタラメ。しかも開催までに、各関係者・業界が迷走の連続。冷静な判断力、まともな倫理観をもちあわせていたら、到底正視にたえない。企画・運営の責任者たちは、「あとは野となれ」という天下の無責任野郎たちだし、それにおどった来場者(2005年3月24日時点で、愛知万博はまだはじまっていないが)は、とんだアホウと、後世にわらわれそうだ。■もっとも、みんな、すぐわすれちゃうか?影山さんに投票した80万人の有権者の大半は、まだご存命のはずだけど、事前のフィーバーぶりをみると、すでにもう……(笑)。
■吉見さんは『博覧会の政治学―まなざしの近代 』(中公新書)って本をすでにおかきだったが、『万博幻想』で引用されている多田治さんの『沖縄イメージの誕生』(東洋経済新報社)も、かなりキレていそうだ。
■キレているといえば、吉見さん、愛知県内にトヨタがつくった文化施設を評して、「『産業』から『環境』まで、一つ一つをとってもきわめて本格的な施設を建設し、万博そのものを自社の文化施設としてしまうような様相を呈している」としたうえで、「別の言い方をするならば、いまや愛知万博は、こうした広域展開するトヨタの文化施設のひとつのアネックスにすぎなくなりつつあるかのようにすら見える。トヨタはすでに以前から愛知の一企業という枠を超えていたが、いまや愛知そのものがトヨタの一セクションといった様相すら呈しつつある」とまでかいている(p.259,強調部、ハラナ)。■これは、シャレにならんな。吉見先生、おだやかそうな表情から、すごいことおっしゃる(笑)。

■ハラナは、これまで、幸か不幸か、一度も万博のたぐいにいったことがないし、今回も当然パスだから、罪はごくわずかかるいか(笑)。

【追記】宇沢弘文『成田」とは何か―戦後日本の悲劇』(岩波新書)は、いまのところAmazonで新本もてにはいるようだし、古本なら、しばらくだいじょうぶそうだ。■しかし当の岩波さんは、「品切重版未定」ですと。同様に、宇沢先生編の『三里塚アンソロジー 』も「品切重版未定」ってことは、岩波さん「うれそうになければ、いいものだってだせません」ってことかね? ■「編者は三里塚空港反対闘争を支えた人々が生み出した文章を「珠玉ともいうべき作品」と呼ぶ.これら現地の記録によって「成田」問題の全体像を浮き彫りにした.本書は戦後日本の悲劇を証言するユニークな一冊である.」とのコピーがむなしくひびきませんか? ■どうやら、世間同様、岩波さん自体、「成田空港」問題をわすれたいのかも
(笑)。