前田栄作『虚飾の愛知万博』(光文社ペーパーバックス)は、まさに 「愛・地球博」の ウラを、これでもかとばかりに、あばいた快著である。■一説には、名古屋や豊田などはもちろん、愛知県内の書店ではなかなか入手できないという、ウワサまであった(笑)。■きのう、おわった「愛知万博」を総括するためにも、本書をとりあげてみたい。 
■まず、前田さんは、博覧会協会が予定していた、来場者総数1500万人を、おおはばにこえて、2000万人の大台をユトリでこえた(2200万人強)。これについて、1500万人さえも到底とどくまいといった論調だった前田さんの予想は、完全にハズれたといえるだろう。
■ただし これは、筆者が想定しなかっただろう、関係者の必死のキャンペーン攻勢が、功を奏したというべきであり、予想のあまさを あざわらうのは、酷というべきだろう。■こういったことを、いうと「推進派」「賛成派」の ひとびとは、きっと「まけおしみ」といった、非難をはじめるだろう。しかし、4月5月の段階では、到底1500万人にとどくような、であしではなかったのであり、関係者も悲観論にかたむいていたはずなのだ。そのヘンのことを わすれてもらってはこまる(笑)。■たとえば、皇太子夫妻に、万博関連のキャラクターの宣伝に一枚かませるとか
(笑)はたふり役についたトヨタはもちろん、「同志」である 電通や、NHK、愛知県などの「総動員体制」がなかったら、後半の驚異的な「おいこみ」も、ありえなかっただろう。■博覧会協会が電通リサーチに、開幕一か月まえの知名度を調査させていて、地域がほとんどなく、90%以上が、開催をしっているという結果をだしているが、ホントに無作為抽出による電話調査の結果とは信じがたい。なにしろ、関東地方とか、全然しらないひとが、かなりいたという印象がつよいからね。■いずれにせよ、それ以前の認知度調査の結果のわるさに仰天した関係組織が、首都圏/関西圏からの集客をねらって、強力なキャンペーンをうったとみる。NHKなどの宣伝効果は、かなりあったんじゃないか?
■「客観報道」をよそおう『朝日新聞』さえも、「愛知万博特集」をネット上にくむなど、ちゃんと「貢献」している(笑)。そこに、かりに「万博の歴史」などという項目があるにしろ、それは、単純な年表にすぎない。■以前、万博論を展開したときに紹介した 東大の吉見俊哉さんが『万博幻想――戦後政治の呪縛』(ちくま新書)の議論のような、深遠で痛烈な批評など、カケラもない。■この点では、『朝日』さえも、「翼賛体制」の一翼にすぎなかった。

■ともかく、問題は、万博はホントに「黒字」で、環境意識をたかめることに貢献し、そして現地をふくめて環境保護に やくだつのか、ってことだ。
■たとえば、『朝日新聞』 (名古屋本社版だけかな?)は、金土日と、「終章 愛知万博」(上中下)という特集を連載した。■そこでは、「環境博 巨大な「実験」手応え」とか「市民参加 エコ活動促す契機に」とか、「経済効果 1.2兆円試算 消費も熱」といった、「景気のいい」はなしが、展開する。■しかし、冷静にかんがえれば、1兆円も「経済効果」があがるとしたら、それこそ それに ともなって、化石燃料の消費も「のびる」と 推測するのが、当然だろう。万博会場内部の「省エネ」設計・理念が、どんなに すばらしかろうと、会場外の経済行動が、急転換するはずがない。■「経済効果 1.2兆円試算」というからには、最低でも数千億円の「経済効果」があり、「開催」そのものが 巨大な 「環境負荷」ではなかったのか? という、反省が、なぜともなわないのだろう。
■シンポジウムやら、人工の噴霧器「ドライミスト」など、さまざまなイベントや「実験」は、無意味ではなかろう。■「エコ」をきそいあった企業館の展示に、将来の環境対策の希望があるかもしれない。■しかし、会場にいかなかった ハラナが 憶測するのは、まずいかもしれないが、企業館の さまざまなイベントは、企業の宣伝にはなっても、来場者の環境行動を、まともにさせる効果があったのだろうか? 手塚治虫の「アトム」じゃあるまいし、科学技術が人類の未来をきりひらく、なんて、技術者と ソボクな市民ぐらいしか、信じてないだろう。
■たとえば、トヨタの「ハイブリッド・カー プリウス」なんて 方向性は、21世紀の「あるべき輸送システム」を さししめしてなんかいないよね。原発が、所詮は化石燃料依存型の、旧来のエネルギー体制のモデルチェンジにすぎなかったように、ガソリンエンジンを駆動力の主軸にすえつづけるのは、「省エネ」という気分を、自己満足的に みたすだけで、なんら 大転換なんかじゃない。■じゃ、プリウスを新機軸に はなばなしく うりだしたトヨタをはじめとして、企業館は、抜本的な文明ののりこえに、ふみだしえたのだろうか? ■「万博は、エネルギーを使い続けるという流れを考え直すきっかけになった」と、「ドライミスト」の実験をしきった辻本誠先生は、おっしゃったそうだが
〔『朝日新聞』名古屋本社版,05/9/23〕、そんなの、万博なんて「きっかけ」なくても、かんがえているひとは、何十年もまえから、かんがえてるでしょ。■水素をもやしてエネルギーをえる「燃料電池」だって、水素を水からつくるための、一次エネルギーを どう調達するかは、原発とおんなじ。化石燃料からの卒業、いや、太陽熱がもたらす自然循環と人力以外に ほとんど依存しないシステムに移行しないかぎり、なんにも問題は解消しないんだよね。■ともかく、「環境に配慮する」とか「環境にやさしい」とか、ぬかしているうちは、エコ・システムの ガン細胞でありつづけるという自覚ぐらいは、万博をへても、定着させられなかったのかね。

■あと、前田さんが心配していた、あと始末の問題。■「愛知万博、売り尽くし 土産品激安、設備にも引き合い
(『朝日新聞』05/09/25)って記事よむかぎりでは、各国館のものが、とぶようにうれ、「キッコロ・ゴンドラ、グローバル・ループ、電動カート、応接セット……。万博協会は様々な資産の譲渡作業に追われる。リストに載るのは約600種類。撤去費や運送費を自己負担すれば「ただ」で譲り受けられるため、全国の自治体から要望が来ている。」と、おめでたいかぎり。■でも、うれのこりは絶対でるよね。それは、焼却処分か、うめたてか、愛知県が「設備購入」ですか? ま、今回は「粉飾決算」は不要だろうから、アホな支出はしないだろうが、ひきとりてがでない、廃材はどうする。■だいたい、各国館や企業館の ハコものは、解体後どうするの? ■跡地は、もとの自然にもどせるの? 「愛知万博中止の会」の面々や各環境保護団体が問題視していた、会場用地周辺の環境保全、復旧は、できるんだろうか?■愛知県などが支出した 諸費用(小学生などへの「無料入場券」代金なども、ふくまれる)の、回収は? ■「入場料収入だけでも当初見込みの425億円を約150億円上回り、万博協会の運営収支は80億―100億円程度の黒字が見込まれている」(「愛知万博が閉幕・2200万人以上が入場」『日経』05/09/25)っていうけど、そういった「帳簿」上の収支だけでは、説明おわらんでしょ?
■これは、みんな、博覧会協会、愛知県、トヨタをはじめとする協賛企業が みんな、説明責任を おっているわけ。■その意味では、前田さんの『虚飾の愛知万博』は、これから、真剣に よみかえされねばならない。そうでなければ、きりひらかれた会場周辺の動植物たちは、うかばれないだろう。■それと、以前は、万博開催反対派に投票した、膨大な選挙民のみなさん。どうなさったのですか? 宗旨をかえて、パビリオンめぐりをして、その後の環境行動は かわりそうですか? いまだに「環境に配慮」とか、ゴーマンかましてらっしゃるのでしょうか?
(笑)  


■ちなみに、吉見先生の『万博幻想』を紹介したとき、そして 多田治さんの『沖縄イメージの誕生』を書評したときにも ふれた 沖縄海洋博だが、つぎのような論評が じもとではあがっていることを、紹介しておこう。

宮城公子 海洋博のころは、青い海白い砂浜のキャンペーンが加速のついた時で、エキスポのテーマも「海、その望ましい未来」だった。反対運動を知らず、それに対してネガディブなイメージはなかった。しかし、実際には農業や漁業からペンション経営に変わって後に採算がとれず、倒産したり、それこそ首をくくったり逃げたり。その後の後遺症もある。いまだにそれを引きずって生きている人を身近に知っている。キャンペーンやエキスポテーマにもかかわらず環境汚染もなし崩しに続けられている。それは沖縄の持つ構造的な問題が露骨に、そして端的に出たといっていいだろう。そして声を出せずに崩壊していった魂が多くあったと思う。

 今でもその可能性にさらされている人は大勢いるのに、沖縄をポジティブに見えるように演出する。それに乗ってしまっている沖縄の人たちの心の荒涼は情けない。繊細な魂からどんどん死んでいく気がする。

座談会「8・13」から1年 沖縄の今を考える(4)
基地依存は加害者にも・目取真 軍事優先の沖縄と韓国・仲里 今も続く海洋博後遺症・宮城
」『沖縄タイムス』(2005/08/16)

* ちなみに、「8・13」とは、2004年の沖縄国際大学への米軍ヘリ墜落事件をさしている(「沖国大がアメリカに占領された日」)

■万博閉会後の 反動=過剰投資による不況は、心配ないとの試算が支配的だが、どうなんだろ。■万博の恩恵をこうむらないどころか、あおりをくった業者さんもいたそうだ。バブルにおどった業者さんも当然いるよね。かれらが、みんな コケずに、今後も健全ビジネスですか? ありえないとおもうけどな。■短期集中型の大型イベントが、地域にヒズミをのこさないなんて、事例あったの?
■みんなで、前田さんの『虚飾の愛知万博』をよもう。そして、ちゃんと総括しよう。■それこそ、まともな環境意識・市民感覚だと おもうけどな。




【以下、余談】読者評のなかに、
46 人中、36人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。

★★★☆☆ 英語が鬱陶しい, 2005/03/28
レビュアー: kani16384   青森県
今日届いて読み始めたのですが、本文の至る所にある英語にウンザリしつつあります。例えば「はじめに」の一文「日本が資本主義社会capitalistic societyである以上、企業が儲けることを私は否定しない。しかし、私企業private businessと組んだ官officialsが国民の税金を食い物にして、壮大な無駄huge wasteをやることは、批判されてしかるべきだろう。」など。一部の語を英訳することに水増し以外の意味があるのでしょうか。文章がぶつ切りになり読んでいてイライラします。

というのがあった
(笑)。■しかし、これは本書だけの欠点ではないのである。光文社ペーパーバックスが、つぎのような編集方針を、本文のよりまえに明記されているのだ。
About Koubunsha Paperbacks
光文社ペーパーバックスは、次のような大きな4つの特徴があります。
【中略】
4.英語(あるいは他の外国語)混じりの「4重表記」
  これまでの日本語は世界でも類を見ない「3重表記」(ひらがな、カタカナ、漢字)の言葉でした。この特性を生かして、本書は、英語(あるいは他の外国語)をそのまま取り入れた「4重表記」で書かれています。これは、いわば日本語表記の未来型です。


■言語学の素養をカケラももたずに、革新的なことをしようとすると、はずかしい勘ちがいをするという、典型例だね
(笑)。■外国語を、もとの表記のまま まぜるという、「異物」あつかいなら、どこでも やっているよね。例外的なばあいを ふくめれば、それこそ、あらゆる モジ化された言語で。■ただ、普通は うっとうしいし はずかしいから、みんな やろうとはしないと。外国かぶれの研究者や官僚、コピーライターみたいな、イカれた 連中以外は(笑)。■経済学や経営学、社会学あたりの「学術書」を よんでごらんなさい、「4重表記」といった、文化植民地的な ヨコもじ まぜがきは、もはや伝統だよね(笑)。どこが、「日本語表記の未来型」なわけ?