■先日、さそうあきら「芥の歌」という、マンガ作品の舞台が産廃処理業者だと紹介したが、石渡正佳『産廃ビジネスの経営学』〔ちくま新書〕が先日でた。■今回とりあげる本は、先月すえに連載した「マクロ経営学から見た太平洋戦争」と「マクロ経営学から見た愛知万博」と、問題として通底している。

石渡さんは、千葉県職員。いわゆる「産廃Gメン」として、勇名をはせた人物だ。■これまでも、WAVE出版から、『産廃コネクション』,『利権クラッシュ』,『リサイクルアンダーワールド』という、産廃問題三部作とはじめとして、岩波ブックレット『不法投棄はこうしてなくす―実践対策マニュアル』,ことしも日経BP出版センターから『スクラップエコノミー なぜ、いつまでも経済規模に見合った豊かさを手に入れられないのだ!』を発表している。■これまで、産廃問題解決の最前線から発信する 強烈な正論が、衝撃的だったが、今回はその総集編ともいうべき決定版となった。■これは、もはや産廃問題にとどまらない、アウトローの政治経済学=法社会学の金字塔ともいえる必読書だ。
■最初に、ひとつだけ 「タマにキズ」をあげておくと、理解するために、それなりの基礎知識と、社会科学的な冷徹な精神が必要だということ。■あっさり かたりながら、実は おそろしく ひろく ふかい深層構造=真相をあばいてしまった、ブックレット『不法投棄はこうしてなくす』も、完全に理解するのは むずかしい 小冊子だ。しかし、それでも おおづかみに 大事なことは網羅されている。■石渡さんは、本来 経理マンであり、そういった会計帳簿の矛盾から、悪徳業者の 脱法行為をみぬいて 背後にある政治利権や行政/警察・検察による規制のアナなどに たどりついていった。産廃利権という巨大なヤミは、経済構造の必然的な産物だし、だからこそ、タテマエと 実態のズレという、二重構造は 帳簿上の矛盾から ついていかないかぎり、まったく「やぶのなか」に消失してしまう。■そういった、おおづかみの スケッチを理解しておくためにも、本書を すぐさま よみはじめるのではなく、岩波ブックレットで 「予習」しておくことを おすすめする。

■さて 石渡さん、オモテ社会が タテマエ上、ないことにして ふるまっている 空間、つまり ウラ社会を総称して「アウトロー」とよぶ。それが すべて 違法・脱法とはいえないものの、おもてむき いえない 空間が ふくまれる。■たとえば「二号さん(愛人)」は 法律上の配偶者が異議をもうしたてないかぎり 違法ではないかもしれないが、オモテむき ないことにされている。こういった領域もふくむわけね。 さらに、売春が非合法なことは、法に明文化されている。当然 暴力団が管理売春みたいなかたちで 収奪し、利潤をあげている。しかし、ことは そんな いかにも「ウラ街道」だけではない。■派遣社員やパート労働者、外国人労働者に、差別的な賃金をしはらって、同一労働同一賃金の原則をふみにじるような構造とか、しはらわれない サービス残業とか もちかえり残業なんてのも、厳密には法律違反になりえる。そういったものをふくめると、実は、大手企業は、総会屋対策などだけではなくて、こういった側面からは「アウトロー」的要素を構造的にかかえているとさえいえる。かりに、自社がかかえこんでいないにしても、配下の子会社、孫請け企業とかがやっていればね。■たとえば、以前話題にした、大手の新聞社が、配下に膨大にかかえている販売店。そこが、販売部数拡大をねらって、「営業」をまかせている「団」と俗称される実働部隊とかは、完全に「アウトロー」系だ。■都市銀行が、バブル期をはじめとして、マチ金などを介して地上げ屋に融資していたことは、よくしられている。まさに、「マルサの女」の世界だ。
■いずれも、キレイごとの タテマエ=オモテを成立させるたけの 補完物として、ウラが「必要悪」とされているわけだね。■結婚制度が偽善的に維持されているから 愛人や売春などがあり、労働に対する正当な報酬をはらっていたんでは 商品がうれないので カモれる層を搾取しつくすとか、キタナイ仕事は、しもじもの ものに、させておくとか……。


■そんななか、工場/土建業/医療関係組織などなら、当然「産廃」という、アウトプット=排泄物をかかえるわけで、その処理業者は なくてはならない存在だ。そして、そういった産廃処理業者は、一部完全に脱法・違法行でもって、営業をつづけている。暴力団/政治家もからんでいる。■業界は、それらの構造を当然しっていながら、「必要悪」として、容認=依存してきたんだね。■そして、それら 「産業界」の「排泄物」的問題は、すべて、ウラ社会の問題として、あたかも オモテに無関係なような演出をくりかえしてきた。石渡さんからすれば、環境先進国のドイツなど、EUのマネをしてつくられた、リサイクル法制なんかも、これらウラ社会=「アウトロー」を みてみぬふりをするための 偽善的装置にしかうつらない。■からんだ、学者さんやら官僚たちは、問題を直視しない おバカさんか、直視したくないので、ごまかしを ひらきなおっている集団にしか みえないと。
■くわしくは、本書にゆずるが、石渡さん、公権力=タテマエがからむことで 発生する、価格の二重構造=オモテ/ウラの分業構造こそ、「アウトロー」の暗躍を合理化してしまう体制だし、中長期的に 巨大な環境破壊とリスクをしょいこみ、いずれは税金で処理しなければならない、外部不経済の再生産構造だとのべる。■そして、これら「オモテ/ウラの分業構造」を、暗黙のうちに正当化するようような「必要悪」論、あるいは偽善的な態度を放置するのを、断固として拒否する。石渡さんは、産廃問題ような「アウトロー」御用達部門は、「必要悪」なのではなくて、ベンチャー企業が リスクをチャンスにかえるかたちで処理していくのが、すじだという。そのためには、脱法をゆるさない完璧な規制を一枚岩でおこなうとともに、「二重価格」が生じないように制度化することで、「アウトロー」に 利益がもたらされなようにすることが第一。それだけでなく、「アウトロー」が いきのこりをかけて、「ベンチャー企業」へと転身できるような政策が必要だとのべる。■これらに、真剣にとりくまないかぎりは、タテマエの法制度が、かえって「二重価格のズレ」=利権を発生させて、かならず「アウトロー」が つけこんでくる。「社会が必要としてる」ってね。■そして タテマエ上、あたかも 合法的/安全に廃棄物処理がなされたかのような、デタラメが くりかえされることになる。暗黙の合意のうえでね。警察が摘発できない、行政が対応できないような 違法投棄/うめたてが、実態としては 延々つづけられると。

■石渡さんは、「アウトロー」の発生メカニズム理解し、不正を発生させないしくみを確立するためにも、資金のながれを 正確に透明化することを 指摘し、そのための実際的装置は、会計学経営学だとする。■そして、それらをささえる基礎理論として「アウトロー社会学」(逸脱行動論/犯罪社会学/マイノリティ社会学など)をすえたうえに、「アウトロー経済学」と「アウトロー法学」が 問題整理する必要をのべる〔p.47〕。たしかに、ウラ社会に とりくむのは、社会学とか犯罪学あたりだけだった。法学は 行政法学などをはじめとして タテマエの秩序をとりつくろうための解釈学で、ウラ社会をカバーした 政策的見地を 提示してこなかったし、経済学も、原発反対派にくみする一部学者が 発電所の実質コスト問題や外部不経済を問題化しただけ室田武『原発の経済学』朝日文庫〕で、産廃問題を実質ささえている違法業者の経済的位置なんて、ほおかむりしてきたんじゃないか? 法学者も経済学者も、「オモテ稼業」の代表みたいな感じだからね(笑)。■ともかく、タテマエをはぎとって、現実を直視したいといった熱意が 社会学のエートスなんだってことは、ピーター・L.バーガー『社会学への招待』〔新思索社〕で、強調されていたけど、現実を直視しない硬直的な法制度や行政施策が 無意味な自己満足であることだけは、たしかだ。■そして、それら おかみの 無為無策に おまかせ状態の 平和ボケ市民が 自分のくびを無自覚にしめていることも、いずれ直視するほかなくなる。

■最後に、では、学者さんたちは、なにもしてこなかったのか? ■実は、産廃問題は当然、社会学者たちの視野にもおさめられており、たとえば、環境社会学会の紀要である、『環境社会学研究』第6号〔2000年〕は、特集で「廃棄物処理の法制化:その意義と社会的影響」をくんで、7本もの論文と研究動向の整理論文まで収録している。■その意味では、すくなくとも、環境社会学の専門家たちは、最低限の作業はちゃんとすすめており、無策なんかではないんだが、いかんせん、学会誌は学会誌なんだよね。今後10年とかかけて じっくりとりくむべき課題とかはおさえられるにしても、きりこみかたが いまひとつだし、早急に解決策をみちびこうといった 姿勢も、当然ないわけ。しかたがないけど(笑)。
■それに対して、まったなしの現場から発信する石渡さんの きりこみは 迫力満点だし、実践的にどう対処すべきか、そして将来像はどうあるべきかも、ズバリかきこんである。■これは、驚異的なことだ。社会学者は、一本とられたというべきだ。そして、それが 環境社会学にとどまらず、法社会学的にも、そして環境経済学的にも、巨大な 視界がひらけたということを、おもくうけとめて、大学人は、がんばらないと、いけないとおもう。石渡さんみたいな、行政の まともな層と 協力して、緊急にね。

■それにしても、日本のGDPが500兆円で、そのうち「アウトロー経済」=市場が5?10%の、25?50兆円。そのうち、産廃アウトローの市場規模が5000億?2兆円、大体1兆円前後と推定される、って試算にはおどいた
〔pp.146-7〕。■以前紹介した、河合幹雄さんの『安全神話崩壊のパラドックス 治安の法社会学〔岩波書店〕と、あわせてよむことを、おすすめする。