きのう紹介した『四○歳からの勉強法』の読書論を素材に、補足というか、私論を展開する。■形式は、やっぱり先日とりあげた、『フリーターにとって「自由」とは何か』巻末の「フリーターに関する20のテーゼ 」の形式をマネて。
【1】役だつ本かどうかの めやすは、?目次、?文献目録・索引、?まえがき、?略歴、?あとがき
 これは、三輪さんと かなりかぶる。三輪さんは、学術書のばあい、索引も着目せよというが、あたりはずれがあるともいう。同感。■ただし、索引は、あった方が 辞書的につかえて便利という程度で、ないものが かなりあるのは、しかたがない。■むしろ、三輪さんがおとしている重要なポイントは、文献目録。一般書のばあいでも、これが充実していれば、それだけで 価値がたかい。■学術書のばあいは、ここで 著者の実力、きあいの はいりぐあいがわかる。■スペースの関係で、これを圧縮しているケース(たとえば、新書など)もあるが、それでも、文献目録には、著者の実力がモロみえ。■逆にいえば、目次と文献目録から、著者の実力や自分との相性が 即座にみぬけるかどうかが、読書家の実力のバロメーター。

【2】略歴は、出身大学院や職歴が どのくらい具体的か、年齢と職位のバランスはどうか、主要著作がどのくらいあるか、それは どこから出版されているかに着目
 研究者のばあい、めやすは大学院をどこですごしているか。■?首都圏や京阪神の有力大学ないし旧帝大系の博士課程をおえていないひとは、超優秀か あやしいか、どちらか。■?単に大学名のブランドではなしに、「○○研究科」と明記されているかどうか、博士号をもっているかをチェック。■アメリカなどで、Ph.D 〔=哲学博士〕をとってきたひとは、大学名をチェック。■これがないばあいは、要注意。■大学名があるなら、インターネットなどで どの程度の ランクの大学か あたること。名目だけで、学位をカネでうりかいしている機関が 実はかなりある。■?職歴は、現職しか しるさないばあいがあるし、また 単に自慢したいだけの 「華麗な経歴」というのもあるので、要注意。■学術振興会の特別研究員という経歴は、常勤職ポストでなく、奨学金をうけた時期だけれども、トンデモ先生でない 重要なめやすになる。■?首都圏や京阪神の有力大学ないし旧帝大系に 常勤ポストをえていれば、ゴミ・ライターである 確率はひくい。特に30代でついているばあいは、非常に優秀な可能性大〔ただし、師匠の茶坊主の可能性も大(笑)〕。■が、「ブランドだけではないか?」という、警戒も必要。編集者は、しばしば ブランドだけで、トンデモ本をうろうとするから。■?逆に、首都圏や京阪神の有力大学ないし旧帝大系でないからといって、バカにしないこと。とりわけ30代のばあいは、エラくなるまえの ほりだしものの可能性が、かなりある。■非常勤講師であっても、同様。これも、30代のばあい、おおバケする可能性あり。■?出版社が バラけている筆者は 実力者の可能性大。逆に、ブランド大学の教授で、有名出版社からたくさんでていても、かたよっているばあいは、編集者とのコネ=パイプができているだけの危険性大。■?40代後半以降で、主要業績に雑誌論文しかないひと、共著しかない(単独著書がない)ひと、単著があっても、大学授業用のテキストしかないひとは、実力に疑問符。■実力のある研究者は、40代後半までには、教科書でない単独の著書、研究書の1冊がないと不安。研究書が複数あり、一般むけ著作もあれば、かなり安心。■?零細出版社でも、研究書を複数だしているところ、研究誌を刊行しているところは、バカにできない。■ある意味、有名出版社でないところの実力状況・主力分野をどのくらいつかめるかが、読書家の実力といってよい。有名出版社でも、よわい領域、編集者と筆者のユチャクの存在などで、ゴミ本は たくさんある。

【3】有名な先生の本、全国紙の書評欄の本は、要注意!
 これは、三輪さんの議論ともかさなるが、?政府の委員などに なをつらねる先生、専門分野をこえて 有名人といった感じの先生たちの 多作は、ゴミ本の 危険性大。■政府委員は、委員にくわわれない研究者が ありつけない貴重なデータ/情報を 官僚から えられるといわれているが、政府にとって ヤバい 情報を ながすはずがない。かりに 入手しているにしても、どうせ かかない。政府委員の 大半は、相当程度、まるめこまれていると警戒すべき。■?有名人の先生の、対談本/口述筆記本が、ゴミの可能性がたかいことは、事実。■?全国紙の書評欄が、なかまうちの ホメあい空間、宣伝空間であるという指摘は、三輪さんほか、いろいろな 人物がくりかえしのべている。これは、基本的にただしい。■?ネット上、たとえば アマゾンなどの読者評が 利害に無関係で、意外に 客観的で、極端な非難や ヨイショを はずしてよめば、かなり参考になるというのも、おおむね ただしい。■ただし、政治性のたかい 書物は、書評したがるひとも、全体がかたよっている。■また、書評しづらい しきいの たかい本もあって、書評がない本の価値がひくいとはいえない。■?『図書新聞』『週刊読書人』など書評紙、『本の雑誌』『ダカーポ』みたいな書評誌、それと学会誌は、期待しすぎなければ、かなり参考になる。■『図書新聞』や学会誌は、実名書評者と著者の応酬(ときに、攻防)が、観戦できて、なかなか おもしろいし、勉強になる。

【4】著者の連作は、ハイリスク・ハイリターン
■?有名人の先生、とりわけ40歳代後半以降の エラい先生が連作しているばあいは、「しこみ」が ほとんどない 危険性大。■?しかし、30歳代の 新進気鋭の研究者のばあい、信じられないペースで、良質な連作をするばあいあり。ハラナの カバー領域でいえば、歴史学・社会学の 小熊英二氏の3部作や、日本語学批判の 安田敏朗氏の一連の著作群など。■これらは、ある時期から失速する可能性はあるものの、「のりにのっている」状況が実在することも、たしか。ま、30代で慶応/一橋の助教授にまでたどりついた 人物の平均水準からいっても、例外的な ひとびとだけど。■しごとが すさんでいるかどうかは、大体、文献目録の充実度で はかれる。刊行ペースよりも、文献目録から 推定可能な、筆者のエネルギー投下量の大小が重要。■一時期の小熊さんや安田さんのような、「かみがかった状況」、圧倒的な蓄積のあとの「爆発」のばあいは、ちゃんとわかる。

【5】研究者でない ジャーナリストも、ハイリスク・ハイリターン
 研究者でない人物の著作が、新聞・雑誌情報などの きりばりにおわっていて、歴史的な 背景をもっていないなど、ふかみにかける傾向があることは、事実。■しかし、何度か 言及した、?関岡さんのように、ものすごい分析力を もつ筆者も実在する。むしろ、定期収入=サラリー/ボーナスなどの保証がない分、すさまじい気迫で 取材力が 展開されているケースもある。■?ただし、読書量をほこる フリーライターは、それこそ ハイリスク・ハイリターン。単に、劣等感のあらわれとして 読書量を誇示している危険性あり。■?その意味では、大学院在学経験が経歴にあるかどうかは、リスク軽減に やくだつ。学位をとっていなくても、2?3年、じっくり 図書館にこもり、ゼミ等で 討議に つぶされずに すごしたという経験は、かなり重要。■?もちろん、学歴無用の取材力をほこる 筆者もある。古典的な例では、鎌田慧さん なんかが、典型。しかし、1960年代以降の世代で 学歴無用の 筆者は 例外的(たとえば、石井政之さんとか、酒井順子さんとか)とおもわれる。■そういった ひとびとでも、新聞記者や雑誌記者、NPO職員、企業の研究所勤務などの経歴は普通ある。そういった、取材・分析・作文修行時代がなく、いきなり作家デビューってのは、一部の例外以外、それこそ ハイリスク・ハイリターン。

【6】無価値な本など、まず ない。要は、読者の器量とユトリ
 ブランド先生の「末期」の対談本/口述筆記本のように、「既知情報のみ=新規情報0」という、ダメ本や、いわゆるトンデモ本は、それこそ「産業廃棄物」として、ゴミのヤマを なしている
(笑)。■「年間数百時間をうかしたい」といった、時間におわれる御仁などにとっては、そういった「カス本」を ひかされるのは、いかりを とおりこして、「人生をかえしてくれ」という 失望が わきあがるのは、よく理解できる。■しかし、「他山の いし」「反面教師」と達観できる境地にたてれば〔だが(笑)〕無価値な本は、現世から消滅する。どんな ダメ本であれ、というか、ダメ本だからこそ、ありがたい 「教科書」たりえるのだ。■?ブランドばりばりの有名人先生でも、無残な表現物をさらけだすという醜態を演じることがあり、しかも それを はじとしていないこと、関係者が「GOサイン」をだしてしまったこと、大量のゴミが 市中にでまわるなど、想像力次第で、さまざまな 教訓がえられる。■?スキのない、完璧な本をかくということが、どれほど マレであり、逆にいえば、それに ほどちかい著作が、どんな才能と努力でなりたっているか、「ありがたみ」が痛感できる。■?何度か「いたい授業料」を しはらううちに、「波長のあわない部類」「破綻の予兆」「ムリ/ムダ/ムラ」などの みたてが できるようになる。■?「ダメ本は、いかにして ダメか?」という観点、つまり、大新聞の「ヨイショ書評」とは無縁な 本来の書評という次元で、論評にあたいしない本は、マレである。「いかにして ダメか?」という観点から 冷静に批評する姿勢は、かならず 「発見」「創造」がある。■とりわけ、「日曜作家」や「ブロガー」として、書評的な 文章をかくとか、本を素材に情報発信する層にとっては、あらゆる本が ネタ化する。■?武術の達人が、あいての「でかた」に あわせたかたちで、ついには ひきこんでしまうように、「読後感」は、読者の器量のバロメーターである〔と、おだやかに ほほえむことができる ニンゲンに、わたしは なりたい(笑)〕

【7】本は、ほかの物価水準とくらべれば、タマゴなみに 「優等生」。問題は、「おさめ/すてる技術」
 三輪さんもかいてらっしゃるが、文庫・新書なら、まず1000円以下。これは、価格破壊が 成立したあと、ずっと低価格帯にとどまったままの、タマゴ・バナナとはいわないまでも、「物価の優等生」であることは事実。■アルコールずきの御仁なら、「生ビール中ジョッキ1?2杯」「中ビン1?2本」以下で、グルメなら「パスタ類1皿」「おサシミ1皿」未満で、数時間の「あらたな人生」が誕生するという 「資本投下」が、かなり おてごろであることに、きづくはず。■つまりは、「ローリスク・ミドルリターン」が ほぼ約束され、しばしば「ローリスク・ハイリターン」にまで ありつけるという、かなり おいしい 出費なのである。■しばしば ほとんど そでをとおさない 衣服に数千円以上の出費をしながら、その失敗を うけながしてしまう ひとびとが、たかだか、千?二千円前後の「ダメ本」に、いかり心頭という、心理が理解できない。■ひとびとは、しばしば 奮発して数万円の衣料費を おしげもなく だすが、4千円をこえる本に出費するのは、「業界」人ぐらいなものだ。これも フシギ。■ハラナが ファッションやグルメに あまり関心がないことを わりびいても、ひとびとは、書物には えらくケチであり、衣服・食事には、信じられないぐらいの散財をしながら、後悔しない。これは、エラく かたよった人生観では?■新聞・雑誌など 「鮮度」勝負の媒体や、チェックがはいらず信頼度がいちじるしくおちるネット情報と 比較したばあい、本にもうすこし 予算配分をおこなうのは、全然時代錯誤じゃないとおもう。
■ペーパーレスを本気で実践したいなら、自宅や職場のちかくの図書館を 徹底利用するしかなかろう。ネット上の「図書館」」で よめるものは、まだまだ かぎられているし、とばしよみも つらいし。■アメリカのように、深夜まであいている図書館はないし、かりに実現しても、すべての市町村には完備されそうにない。■しかも、それだって、「まくらもと文庫」や「トイレ文庫」は、かしだせた範囲だけだしね。
■ただ、「私有された本」の問題は、場所をとり、おもたいということ。■つまりは、「おさめる技術/すてる技術」を確立しないと、混乱と破綻が早晩やってくる。「すてられない記憶」を もちがちな 性格の ひとびとにとって、最大の難題は、出費ではなくて、収納/譲渡/廃棄のシステムが維持できるかなのだ。■ちなみに、ハラナは、全然課題解決していない
(笑)