■文部科学省系の統計数理研究所が、『日本人の国民性調査』という調査を5年ごとに ほぼ半世紀くりかえしてきている。

調査の歴史と目的

 日本人の国民性調査は,昭和28年(1953年)から5年おきに,同じ質問文で行っている調査で,ほぼ半世紀にわたって日本人の心の動きを追いつづけています。
 同じ質問文の調査を継続することで,日本人の意識がこの間にどのように変遷したかを捉えることができます。その一例は,こちらをご覧下さい。
 日本人の国民性調査では,ものの見方・感じ方・考え方や価値観・生活信条・意見といった,「日本人のものの見方・考え方」の特徴と動態を統計調査によって調べることを目的として実施しており,典型的な調査内容は,ありふれた日常場面での意識・態度・心情・行動に関する質問などです。
 この調査から,日本人の心の変化についてのいろいろな興味深い発見が得られていますが,この調査研究の本来の目的は,統計学を用いた日本人研究にあるだけでなく,この調査を素材として,時代の変化に適応した新しい調査法やデータ解析法を開発することにあります。

----------------------
■「日本人」という集団を実体化=本質化している以上、俗流日本人論への「ガソリン」を備給する、アカデミズムの病弊〔ビョーヘー〕と、なでぎりにすることも可能だが、興味ぶかいデータもある。■まず、「第 11 次 日本人の国民性調査」 結果の概要の冒頭部分の一部を転載。
----------------------
はじめに:研究の目的と調査の経緯
【一部略】
 昨年(2003年)9?10月には調査開始50周年に当たる第11次全国調査を実施しました。調査は,全国の20歳以上80歳未満の男女個人を対象とし,層化多段無作為抽出法により選ばれた4,200人に対し,個別面接聴取法により行ないました。有効回答者数は2,350(回収率56%)でした。

----------------------
■さて、今回焦点をあてるのは、「トピック1 どこまで上がる女性の人気」。

■「図1.‘男・女の生まれかわり’に関する回答の推移」は、解説文にもあるとおり、半世紀にわたって、オトコは一貫して「またオトコにうまれかわりたい」と、回答しつづけてきた(およそ9わり)。

(図1解説)

“生まれかわるとしたら男か女か?”

 男性は,質問を始めた1958(昭和33)年以降,いつの調査でも約90%が“男に生まれかわりたい”と答えるのに対して,女性は,“女に”という答えが,1958年の27%から増え続け,45年後の今回は69%に達しました。かつて多数派であった“男に”という女性は4人に1人で,現在では明らかな少数派です。

----------------------
■この解説文は、おおむね客観的だが、みだし文の「トピック1 どこまで上がる女性の人気」は、誤解をまねく。「男性は,質問を始めた1958(昭和33)年以降,いつの調査でも約90%が“男に生まれかわりたい”と答える」という実態は、オトコは、ほぼ全然かわらなかったことを意味している。■「オンナに うまれかわりたい」とこたえたオトコたちが、一貫してヒトけた台であることは、「オトコは、つらいよ」と、いいながら、「オトコの大半は オトコが大すき」であり、「オンナにだけはなりたくない、とおもっている」というのは、まぎれもない現実なのだ。■もともと、「つぎに うまれかわれるなら、ほかの性別も経験してみたい」という願望は、一定数存在するはずなのだから、「オトコは、つらいことばかりで、ロクなことはない」とか、「オトコは暴力的な性で、いまわしい」といった人生観がしめる、「自己批判」的な、うまれかわり願望は、例外的なものだと推定できる。■こうかんがえてくると、オトコたちの男性性への こだわり、しがみつきかたは、異様な様相をしめしているといえよう。第二次大戦後、戦後復興の直後から半世紀ずっと、「オンナにだけはなりたくない、とおもっている」オトコたちという、現実は、少々不気味だ。


■もちろん、「女性は,“女に”という答えが,1958年の27%から増え続け,45年後の今回は69%に達し」たという動態は、みのがせない。■「オンナは損」という人生観が一貫してへりつづけている証拠だろう。それ自体は、女性の社会的地位の改善、女性性を肯定的にうけとめられる社会が戦後日本に実現したという、現実だ。フェミニズムの理想からはほどとおく、こそだてや職業生活に おおきな不満をかかえているはずの女性たちが、それでも「オンナをくりかえしたい」とかんがえる女性がふえつづけていることは、よろこばしいことだ。

■しかしである。■もしそうであるなら、日本社会の、男女のありようは、大して問題ないのであろうか? ■これで「それでも 『オンナをくりかえしたい』とかんがえる女性がふえつづけて」男性においつき、9わりで、「たかどまり」になったとしたら、理想の日本社会がやってくるのだろうか?
■「ちがう性別も経験してみたい」という好奇心ではなくて、「オトコは、もうコリゴリ」とか、「オンナは、もうコリゴリ」という、「うまれかわり願望」が おおすぎる社会は、たしかに不幸だろうが、「自分の性別がすき。またくくりかえしたい」とかんがえる、オンナ/オトコだらけの社会というのも、不気味ではないか?

■ちなみに、「図2.‘楽しみはどちらが多いか’に関する回答の推移」には、
(図2解説)
“男と女のどちらが楽しみが多いか?”
 1970年代までは,男性も女性も“いまの日本では楽しみは男が多い”という答えのほうがずっと多かったのですが,20年ぶりにこの項目を取り上げた前回1998年の調査では 男が多いという意見が大きく後退しました。今回(2003年),この傾向は一層強まり,“男が多い” 対 “女が多い”が38%対42%で, 男女合計では“女が多い”がはじめて多数意見になりました。
 特に,女性の間でのこの意見の伸びは著しく,28%対56%,つまり1対2の割合で,“女が多い”が多数意見になっています。
 なお,“苦労はどちらが多いか”では“楽しみ”のような一定方向の動きは見られません。

とある。■解説文は、女性の「満足感」ののびに着目するが、強調しすぎは、まずかろう。■男女とも「自己満足」派が、5わり台で拮抗、「異性へのヤッカミ」派が2わり台で拮抗と、たがいの性別文化が共存というよりは、無理解のまま平行線をたどったまま、「自己満足」派:「異性へのヤッカミ」派=2:1という、構図ができあがるにいたったということにすぎないのでは?
■ちなみに、男性の「自己満足」派には、オタク系・ギャンブル系・性風俗系・飲酒系などが、かなりの勢力をしめそうだが、どれもが、ほかを圧倒しているわけじゃない。かなりの程度、相互に交渉のない、すみわけが基本かと。


■それにしても、この文章をかく気になったのは、『朝日新聞』の日曜版 「be on Sunday」にレギュラーででている、「〔あっと!〕データ」という1面みぎかたのシリーズの記事「つらくても今のままがいい」なのだが、なぜか、このシリーズは、ウェブ版には、のらないんだよね。■どうしてだろう?
■ちなみに、勝田繁彦記者、
……どうも、現代は女性の方が楽しいことが多いらしい。
 そうなるとわからないのが、男性に生まれ変わりたい男性が今なお8割もいることだ。「生きるのは楽しむのが目的やない。いろいろがまんしとるんや」。そんな男の意地を感じる

と、かってにまとめているが、統計から「現代は女性の方が楽しいことが多い」なんて結論はみちびけない。■また、かりに、「楽しいこと」を目的としていない、つまり享楽主義をこばむ禁欲主義が男性に支配的だからといって、それが、「意地」といったもので説明できるとは、いえない。■単に、マゾヒズムの一種かもしれないし、おもに「政治労働」をまっとうし、権力闘争にかつためには、「おたのしみ」は、ガマン、ないし「さきおくり」しか、ありえないという、ありきたりな理由にすぎないかもしれないし。■そんなもの、ほめられた「意地」なんかじゃない。