■『朝日新聞』(名古屋本社版朝刊)の社会面記事が、ウェブ上にでていないので、転載。

未明に物音と悲鳴
入所後わずか5日

 不登校や引きこもりなどの人が50人以上暮らす施設で何があったのか。名古屋市のNPO法人「アイ・メンタルスクール」の寮に入っていた男性(26)が手足に多くの傷を負って死亡した事件で、愛知県警は20日、本格的な捜査に乗り出した。集団生活やアルバイトを通じて自立心を養い、社会復帰を目指す。男性が入所5日目で帰らぬ人となったのは、そんな施設だったという。
 18日午前8時、目を覚ました男性はぐったりとした様子だった。職員が体温を測ったが、低かったという。アイ・メンタルスクール杉浦昌子代表理事と職員が施設の車で病院に運んだが、午前9時10分に心肺停止が確認された。
 近くに住む女性はこの日の未明にドン、ドーンと2回、大きな音を聞いていた。何かをたてき付けるようだったという。女性は「物音の他にギャーという叫び声も聞こえた。いつも夜中には声や物音がしていたが、この日はいつもと様子が違った」と話す。
 県警の調べでは、夜は2人の職員が付き添うが、この夜も暴れたため、職員らが抑えたという。県警の司法解剖の結果、外傷性ショック死とみられる。両腕や両足などに多数のない出血やすり傷があった。
 職員の話では、男性は今月14日、母親の依頼で東京世田谷区の自宅から寮へ移った。男性は引きこもりで、「自分では外に出ることができないから」だという。
 寮では、3階建て施設の1階にある「大部屋」に入った、20畳ほどの畳敷きの部屋で、ほかの9人の入寮者と同居した、この寮には、10代から40代にかけての男女50?60人が入っているという。
 男性は入寮日から激しく暴れ、触れられることを極度に嫌がった。もがくように手足を振り、時には職員に殴りかかった。こうした状況は毎日続いたという。
 職員の一人は「入寮者に職員が暴力をふるうことはない。拘束具なども使っていない。暴れても話をして落ち着いてもらった」とする。しかし、「当日の詳しいことは代表理事にしかわからないが、連絡がとれない」とも話す。杉浦代表理事は20日も、報道陣の前に姿を現さなかった。

集団生活で社会復帰掲げ

 アイ・メンタルスクールは、愛知県内で親族と学習塾を経営していた杉浦代表理事が90年代に立ち上げた。名古屋市東区に本部事務所があり、同市内に数カ所の寮を開設している。
 ホームページによると、1時間8千円で訪問カウンセリングを行っている、寮は1カ月13万円。社会にうまく適応できない人格障害のある子どもを主に預かり、更正させるとしている。  ホームページが関係者の話では、寮では自炊生活をしており、人によってはアルバイトをしている。「働かざる者は食うべからず」と指導し、仕事を紹介して自分で生活費を稼ぐよう促しているという。
 杉浦代表理事は、自ら訪問カウンセリングを行うことが多く、そうした体験記をまとめた本も出版している。
 市民団体の会合に4年前に招かれた際には「地域の鉄工所で働いたり、チラシ配りをしたりして、社会復帰をした人もいる。引きこもりは甘え、怠けの結果。しごいてやらないと治らない」などと話したという。
 一方、こうした手法に対し、「深夜までアルバイトをさせられた」といった苦情も、入所経験者や親から出ている。
 愛知県によると、アイ・メンタルスクールがNPO法人の認証を受けたのは01年。だが、寮の運営はNPO法人とおなじ名前の有限会社が行っている。このため「今回の場合は、立ち入り検査や改善命令は出せない」としている。
 愛知県警は20日、逮捕監禁などの容疑で、名古屋市東区泉1丁目の「アイ・メンタルスクール」の本部事務所を家宅捜索した。
 本部事務所はオフィス街にあるビルの4階。捜査員が午後6時ごろ、資料などが入った段ボール箱を運び出した。寮の現場検証は同日午後10時前まで続いた。

同意ないと効果上がらぬ

 NPO法人「不登校情報センター」の松田武己理事長の話
 集団生活そのものは引きこもりからの回復のための一つの手法。アルバイトなどの就労も改善につながることがある。ただ20畳の部屋に10人が生活するのはプライバシー面でも気になる。また、入所直後から暴れたというなら、本人の意思や感情を無視された入所した可能性が高く、問題だ。本人の同意なしでは、期待する効果も上がらないだろう。

------------------------------
■なんとも、奇怪な事件である。この代表理事が長をつとめるらしい、「アイメンタルクリニック」なる団体の、ホームページは、とても「ひきこもり」問題への対応組織にはみえない。■しかし、「ひきこもり(引きこもり)のページ」という、詳細な紹介サイトのホームページには、「アイメンタルスクール 引きこもり相談」という、リンクが実在し、それは一致するのだ。■たぶん、強制捜査前後に、関係リンクをひきはらったのだろう。
■本来は、「同業者」であるはずの、松田武己氏のコメントを参考に、問題を整理してみよう。
■?「集団生活そのものは引きこもりからの回復のための一つの手法」にすぎず、あわない層も当然いるはず。■?「アルバイトなどの就労も改善につながることがある」が、これも あわない層も当然いるはずで、杉浦代表理事の持論らしい「働かざる者は食うべからず」といった人生観は、単なる おしつけだろう。■?「20畳の部屋に10人が生活するのはプライバシー面で気になる」というより、準「タコ部屋」=劣悪な収容施設の疑惑がつよまる。■?「入所直後から暴れたというなら、本人の意思や感情を無視された入所した可能性」がたかいことは、もちろん、「入寮日から激しく暴れ、触れられることを極度に嫌がった。もがくように手足を振り、時には職員に殴りかかった。こうした状況は毎日続いた」と、管理するがわがのべている以上、もてあました母親など親族の意向だけで、半強制的に入所したのだろう。■?「本人の同意なしでは、期待する効果も上がらないだろう」というのは、あたりまえだが、家族や管理者の「期待する効果」など、当人が拒絶していたことの表現こそ、「入所直後から」「毎日続いた」「こうした状況」だったのでは?■?「この夜も暴れたため、職員らが抑えたという」なら、「暴れても話をして落ち着いてもらった」という説明と矛盾するね。■?「夜は2人の職員が付き添う」のに、「当日の詳しいことは代表理事にしかわからない」というのも、矛盾するね。その晩は、「暴れたため、職員らが抑えた」というのに、宿直せずに、かえってしまったのかね? 杉浦代表理事だけが、宿直だったとしたら、2人体制をその晩だけやめたのか?

戸塚宏氏主催の「戸塚ヨットスクール」と、同質のにおいをかぎとるのは、ハラナだけだろうか?
シリーズで論評をかいてきた『「ニート」って言うな!』の著者のひとり、内藤朝雄氏が、こういった、「ひきこもり」「ニート」対策の施設について、「プチ兵営生活」といった批判を展開している〔pp.193-5〕が、こういった風潮は、現代の「人足寄場」といえないか?