■とうとうシリーズ最終回【「原田和明「水俣秘密工場」1-2」「3-4」「5-6」「7-8」「9-10」「11-2」「13-4」「15-6」】
■リンクなどは 原田さんではなく、ハラナによる追加。


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世界の環境ホットニュース[GEN] 582号 05年04月21日
発行:別処珠樹【転載歓迎】意見・投稿 → ende23@msn.com     
水俣秘密工場(第17回)       
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水俣秘密工場                    原田 和明

第17回 マッカーサーの戦争準備

オクタノールの生産が国策ならば、チッソが湯水の如く垂れ流した水銀もまた国策によって確保されたものでした。それも、朝鮮戦争を意識したマッカーサーの指示である可能性が極めて高いものでした。
1949年、中国での内戦共産党の勝利に終わると、GHQはその余波で朝鮮半島にも火の手があがるのは必至とみて、その時期をさぐるべく対北朝鮮のスパイ機関KLO(韓国連絡事務所)を設置しました。KLOからの情報でマッカーサーは金日成の動きを正確に把握していたのです。
中国大陸及び朝鮮半島の動きと平行して戦争勃発の際には日本を後方基地とする対策もこの頃から動き始めています。戦略物資の備蓄、その輸送ルートの確保、工業生産力の育成などです。
開戦の4ヶ月前、日本では産業復興公団法 改正案が審議されていました。本土決戦に備えて軍部が備蓄していた物資を民間に返還する目的で物資毎に配給公団を設けていましたが、物資の隠匿、横流しなど様々な不正の温床となっていました。そのため、また一定の役割を終えたため、配給公団は次々に縮小または清算されていました。その時期に腐敗の巣窟とも言われた産業復興公団だけが新たに特別融資を受けて『緊急重要物資』を備蓄する業務を始めるという法案が上程されたのです。与野党が賛成する中、ひとり風早八十二(共産党)だけがこの法案の本質を指摘して、異を唱えました。(1950年2月15日衆院通産委員会、2月23日、衆院本会議)
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風早曰く
「産業復興公団は特定の大企業、ブローカーに不正な払い下
げを繰り返し、腐敗の巣窟となっているにも関わらず、新たに
特別融資を受けて『緊急重要物資』を備蓄する業務を始める
のはなぜか? さらに『緊急重要物資』には水銀、鉛、黒鉛、
亜鉛、ニッケルなど特定の外国が特に必要としている物資と
一致するのはどういうわけか?」

「この点は私が再度にわたつて政府委員にただしたのであり
ますが、政府委員はその都度言を濁して、何らわれわれを納
得させる説明を與え得なかつたのであります。私はますます
この点に関する疑いを深める印象を受取つたのであります。」

そして、風早は占領国・米国を名指しすることを避けつつも次のように断じています。
「産業復興公団に 特別融資の 道を開かなければならないと
いう理由は、これら戦略物資の備蓄 以外にはあり得ない。
はたして そうとすれば、これはきわめて由々しき問題である
と思う。私は、今 吉田内閣は、国民の負担において 特定国
の―――――下請機関を新しく作ろうとしているのである、そ
う断ぜざるを得ないのであります。」

風早の演説にはもう一箇所伏字部分があります。
「この法案の意図するところは、その表面に現われたところよ
りも、はるかに深刻なものである。結局、今後ますます吉田
内閣によつて急速に進められようとする――――にこれが使
われるということは、きわめて明瞭であります。われわれは、
この意味において、この法案に 対して絶対に 反対を表明す
るものであります。」(拍手)

風早は「特定国の何」だと言ったのでしょうか? この部分は 2月15日 衆院通商産業委員会において風早が同様の演説をしていて、伏字部分を知ることができました。
「日本政府は国民負担において、特定国の戰争準備の下請機関をつくることにならないでありましようか。」とあることから、23日の議事録にある「―――――」の部分は「戰争準備の」であったことがわかります。米国に占領されていた当時の日本には朝鮮半島情勢を独自に知りうる手段をもっていませんでした。当然、風早八十二が数ヵ月後に隣国で戦争が勃発するなど予想できるはずがありません。それでも水銀などの特定物資の備蓄は政府が何と言い逃れしようとも「次の戦争準備」としか解釈できない不自然さに満ちていたということです。法案は可決されました。
オクタノールを生産するためにチッソが湯水の如く浪費した水銀はGHQの指示でわざわざ法律まで作って「戦争準備」のため備蓄したものだったのです。このことからもチッソのオクタノールは民生用の塩化ビニル樹脂可塑剤用途であるとは到底考えられません。
さらにGHQは戦略物資の輸送ルート確保にも着手していました。1949年7月5日下山事件(初代国鉄総裁 下山定則の轢死事件)、7月15日三鷹事件(中央線三鷹駅構内で無人電車が暴走。死者6人)、8月17日松川事件(東北本線金谷川?松川間で機関車 転覆。死者3人)とウイロビーを頭とする米極東軍司令部情報部の影のちらつく奇怪な事件があいついで起こっています。これら国鉄を舞台にした怪事件を背景に 戦闘的な国鉄労働組合員9万人の首切りを強行し、戦闘勃発の際の大動脈である鉄道の確保に成功すると、マッカーサーは日本で最も強力な反戦勢力となりうる日本共産党と労働組合、朝鮮連盟に弾圧を集中しました。世に言うレッドパージですが、これも戦争準備の一環だったのです。

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世界の環境ホットニュース[GEN] 583号 05年04月24日
発行:別処珠樹【転載歓迎】意見・投稿 → ende23@msn.com     
水俣秘密工場(最終回)       
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水俣秘密工場                       原田 和明

第18回(最終回) 「九条」と「従米」の谷間

米軍は 金日成の動きを逐一知っていたのではないかという疑いが 開戦当初から
ありました。まだ戦争中の1952年に米国人ジャーナリスト、I.F.ストーンは著
書「秘史朝鮮戦争」の中で次のように指摘しています。

「米極東軍総司令部の諜報担当の責任者ウイロビー少将ら
が スパイから集めた情報をもとに、マッカーサーは北朝鮮が
戦争準備を進めていることを知りながら、ワシントンには『19
50年春または夏に朝鮮に内乱が起こらないと信じられる』と
正反対の報告を送っていた。」
萩原遼「朝鮮戦争」文藝春秋1993)
なぜ、マッカーサーは本国に虚偽の報告をしたのでしょうか? 米国は中国での蒋介石大敗、台湾落ちに打ちひしがれていました。米大統領トルーマン台湾が中国共産党に攻撃されても米国は介入しないと声明したほどです。(1950年1月5日)この状況を巻き返したい軍部タカ派は 国務省を封じ込めるために、金日成の妄動を知りながら敢えて先制攻撃のチャンスを与える道を選んだのです。そのためには、タカ派のマッカーサーはワシントンを騙す必要があったのです。国会議事録の風早演説から「戦争準備」の文言を伏字にした意味もここに通じるのでしょう。
金日成に助けられて米国は不法な軍事介入者を正義の使徒に装うことに成功したのです。マッカーサーの米極東軍司令部はすべて中国革命の進展とそれに鼓舞された金日成の動きにあわせて動いていました。そして一連の動きを彼らの思惑に利用したのです。
金日成の妄動と虎視眈々の米軍の介入こそが朝鮮半島を地獄に変えた元凶でした。米軍の無差別爆撃は都市と農村を焼き尽くし破壊し尽くし、数百万の朝鮮人民が殺傷されたのです。さらに中国の参戦により朝鮮戦争は米中戦争になり、人命・財産の被害はいっそう拡大しました。南北の憎しみと対立は戦争を凄惨なものにし、南北分断は完全に固定化されました。
朝鮮戦争の影響は日本にも及んでいます。米軍の基地となり、警察予備隊が創設され、日米安保締結、様々な面で米軍の「戦争準備の下請け機関」となるなど、「従米国家」の基礎が固められ、憲法九条の理念は早くも踏みにじられたのです。「水俣病事件」は産業界もその例外ではないことを示す一例ではないかというのが今回の仮説から導かれる結論です。
軍産複合体といわれる米国の巨大な軍需産業が生き延びるにはどこかの地域で紛争が起きることが必要でした。第二次大戦から5年もたち、不況をかこっていた軍需産業にとって「朝鮮は祝福だった。この地か、あるいは世界のどこかで朝鮮がなければならなかったのだ。」(米朝鮮前線司令官ヴァン・フリート将軍)日本の産業界もその一翼を担い、朝鮮特需に続きベトナム戦争に伴う特需を経て戦後の復興を果たしたのです。
米国の繁栄は世界のどこかで戦争が起こる(起こす)ことによって担保されているとするならば、米軍の後方基地となった日本の豊かさもまた戦争によって維持される類のものなのかもしれません。これまで日本人は自衛隊を容認する一方で憲法九条護持の道を選びました。戦後保守政権はその交錯する世論を背景に憲法九条によって海外派兵できなかった分を公害という形で犠牲の分担を受け入れたと考えると、水俣病をはじめ60年代を中心に全国で引き起こされた公害もまた結果として日本人の選択したものだったとも言えるのでしょう。
このシリーズでは結局、チッソのオクタノールが航空燃料用潤滑油原料に使われたという証拠も提示できなかったし、潤滑油の製造工場を特定することもできませんでした。状況証拠の一部を提供できたにすぎません。チッソ水俣工場に秘密のミッションがあったかなかったか? 真相は依然として藪の中です。
それでも、チッソ水俣工場に秘密のミッションがあったとすれば、水俣病事件を拡大させた一方の当事者である通産省(軽工業局長・秋山武夫)の「チッソ水俣工場の操業を継続させた」動機がひとつ解明されたのではないかと考えます。
事件拡大のもうひとつの当事者は「水俣湾の漁獲に対して食品衛生法適用を阻止し、沿岸漁民に汚染した魚を摂取せざるをえない状況を作り出した」熊本県(副知事・水上長吉)であり、その動機の解明にも改めてチャレンジしてみたいと思います。

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■水俣のチッソにかぎらず、「軍需」という魔力は、第二の「公共事業」として隠然たる機能をはたす。いや、準戦時体制にはいるや、第一の公共事業として、ほとんどあらゆる工業生産・サービス産業が総力戦体制のもとに再編成され、そして、すくなくとも軍需産業関係者は、うるおう。おろかな浪費・破壊でしかない戦争に投入された資源・人材がどこから収奪されたかをとわなければ。■そして、おもてむき軍需産業が前面にでていなかろうと、大国の「後方支援」を直接・間接にになうかぎり、それは広義の軍需産業であり、それが主軸なら準戦時体制=戦争立国ということになる。■沖縄はもとより、日本列島が、「朝鮮戦争・ベトナム戦争の期間以外は、一貫して民生品をおもにつくっており、戦争に加担などしていない」といいきれるかどうかは、企業と政府に立証責任がある。
■そして、軍需産業かどうかはともかく、いくつかの地域に産業社会の矛盾をしわよせして「復興」「繁栄」をかちとったせめをおわねばなるまい。宇井純さんのつぎのような発言に鮮明に表現されているように。
「国民全体が(戦後の繁栄の)利益を享受し、ごく少数の人に被害が集中したわけだから、少数の人を救済するのは当然で、そして税金で全体を救済して当然だという考えも出てくる」

【関連資料】「水俣病問題関係略年表等