■博識であることは充分つたわってくるのだが、タイムリーにハズしてくれる民間の哲学者 永井俊哉氏。
■今回は、「男女共同参画社会

1999年に男女共同参画社会基本法が成立し、2001年には内閣府男女共同参画局が設置され、国も自治体も女性の社会進出に向けて取り組んでいる。だが、政府が推進する男女共同参画社会とは、左翼系フェミニストが期待しているような、女性労働者の地位の向上を保証する平等な社会ではなく、資本家を儲けさせるための格差社会である。

■この総括については、基本的には異論はない。■だって、産業界がのぞんで政府をつきうごかしたんだから、連中が「労働者の地位の向上」だの「平等な社会」なんぞをイメージするはずがないからな(笑)。■ただね、問題は、その批判の方向性だよね。
【中略】
上野千鶴子のような左翼のフェミニストは、ワークシェアリングによる福祉国家の実現を夢見ている。確かに、女性が労働市場に進出しても、男女の労働時間を短縮すれば、賃金水準の値崩れを防ぐことができるだろう。しかし、日本の雇用政策は、福祉国家的ないしフォーディズム的な労使協調を終わらせる方向で動いている

1999年から施行された改正男女雇用機会均等法では、男女の均等取扱いとひきかえに、女子保護規定が撤廃され、女性の残業・休日労働・深夜業規制がなくなった。男女の労働者に、現在の男性なみの厳しい労働条件で、かつ、現在の女性なみの安い賃金水準で働いてもらうことで男女間の格差を解消したいというのが資本家たちの本音である。そして、資本家から多額の政治献金を受けている自民党や元自民党の保守主義の議員たちが、 資本家の利益になる政策に賛同するのは当然である。

フォーディズム的な労使協調の終焉は、たんに賃金水準を切り下げるだけでなく、雇用形態の変更をもたらす。雇用者は、社会保険や福利厚生費を削減するために、あるいは雇用の硬直化を防ぐために、非正規雇用を増やしつつある。非正規雇用といっても、正規雇用と比べて必ずしも労働時間が短いわけではなく、むしろ時間給が低い分、長時間働かなければいけないというのが現実である。企業は、非正規の雇用を増やすことで、一人当たりの労働時間を減らそうとしているわけではなくて、従業員の一生の面倒を見ることを放棄しようとしている。

この終身雇用制の崩壊もまた、男女間格差を是正することになる。これまで女性の賃金水準が男性の賃金水準よりも低く抑えられていたのは、かならずしも経営者の性的偏見が原因とは言えない。女性従業員は、結婚や出産でいつ辞めるかわからないので、スキルアップのための長期投資や、企業秘密を漏らすことになる経営参画の対象にはなりにくかった。つまり、女性従業員の賃金水準が安いのは、男性アルバイト従業員の賃金水準が安いのと同じ理由なのである。だから、終身雇用制の崩壊は、男女間格差を縮小させることになるわけだ。

発展途上国と比べて高い日本の労働賃金の水準は、今後とも下がっていくだろう。ただ、下がるといっても、それはあくまでも平均的に下がるというだけであって、個別に見るなら、少数の勝ち組と多数の負け組みに二極分化することになるだろう。では、勝ち組の条件は何かといえば、それは、将来ロボットやコンピュータによるオートメーション化が進んでも、それらによって代替されることがない仕事をしている人たちである。

男女共同参画社会による、労働賃金水準の下落は、究極的には、オートメーション化によって惹き起こされている。 かつて主婦の仕事は、成人のフルタイムの仕事に相当するほど多かったが、家電製品の自動化により、 格段に省力化されるようになった。女性の労働市場への進出は、家庭内オートメーション化によって浮いた労働力が家庭外に補充されることを意味している。

ロボットやコンピュータによって代替できない仕事は、誰にでもできるような単純な仕事ではないのだから、誰もが仕事をする能力があることを前提にしている社会主義的なワークシェアリングは適切ではない。自由競争により、機械によって代替できる人間と、そうした人材ないし機械を使いこなすことができる人間とに選別する必要
が出てくる。福祉国家崩壊後の新自由主義(新保守主義とも呼ばれる)は、そうした考えに基づいて現れてきた
のである。

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■現状認識は、ただしいとおもうよ。一部をのぞいてはね。■でもって、その一部、関心のないひとにとっては、どうでもよさそうな、せいぜい「タマにキズ」程度の失点にすぎないかもしれないが、やっぱり、これは致命傷だとおもう点を列挙。


女性従業員は、結婚や出産でいつ辞めるかわからないので、スキルアップのための長期投資や、企業秘密を漏らすことになる経営参画の対象にはなりにくかった。つまり、女性従業員の賃金水準が安いのは、男性アルバイト従業員の賃金水準が安いのと同じ理由なのである

■おいおい、ちょっとまった。その証拠は?■じゃ、なにか? 「男性アルバイト従業員」ってのは「いつ辞めるかわからないので、スキルアップのための長期投資や、企業秘密を漏らすことになる経営参画の対象にはなりにくかった」ってか? ■そんなはずないだろ? だって、パート・アルバイトからはじまって正社員はもちろん、役員にまでのぼりつめたなんて例もあるよね。しかも女性でも。■女性や、わかい男性が「スキルアップのための長期投資や」「経営参画の対象にはなりにくかった」っていうのは、「いつ辞めるかわからない」からっていう、不信感なんかじゃないでしょ?■はじめから、「スキルアップのための長期投資や」「経営参画の対象」とみないっていう、「みかぎり」「差別感」があったんだよね。■でもって、女性や、わかい男性の一部に、「どうみても、既存の常勤スタッフより、できる」って人材は、例外的にだけど確実に少数実在するわけだ。そういったひとびとを、ちゃんとみとめる上司がいると、ひきたてられたわけだよね。
■つまり、最初に不信感ありきで「おしえたってしかたがない」「おしえたら、ぬすまれ/にげられる」って警戒して、育成をてびかえたんじゃないだろう。■女性/わかものへの偏見があって、差別的にとりあつかってよいという合意がオヤジたち雇用者がわにあったから、こういった人事がくりかえされてきたとしかかんがえられない。
■あたかも、女性/わかものが、信用ならない存在としてあったから、それなりの処遇をえたのは当然みたない、オヤジ雇用者たちの利害を合理化するなよ。

勝ち組の条件は何かといえば、それは、将来ロボットやコンピュータによるオートメーション化が進んでも、それらによって代替されることがない仕事をしている人たちである。
……ロボットやコンピュータによって代替できない仕事は、誰にでもできるような単純な仕事ではないのだから、誰もが仕事をする能力があることを前提にしている社会主義的なワークシェアリングは適切ではない。自由競争により、機械によって代替できる人間と、そうした人材ないし機械を使いこなすことができる人間とに選別する必要が出てくる

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■「ロボットやコンピュータによって代替できない仕事」っていうけどさ、ながれ作業にしろ、セル方式にしろ、「オフィス・オートメーション(表現がふるいが)」の空間でくりかえされている労働が、ロボットやコンピュータで代替できるような過程(=「誰にでもできるような単純な仕事」)だっていうのか? ■いや「長期的にはそういった宿命をおびた労働過程だ」って見解はただしいかもしれない。中岡哲郎さんの『人間と労働の未来』(中公新書,1970年)は、そういったおっそろしい予言をしていて、基本的にあたっているからな。■じゃ、そういった労働に従事しているひとは、「誰にでもできるような単純な仕事」にしか適応できない能力、いいかえれば「ロボットやコンピュータによるオートメーション化が進んでも、それらによって代替されることがない仕事」につけない層か、ってことだ。■そうじゃないだろう。そういう機会があたえられなかった層をさすんじゃないの


女性の労働市場への進出は、家庭内オートメーション化によって浮いた労働力が家庭外に補充されることを意味している
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っていうけど、ホントか?■19世紀後半に、オンナ/コドモが家族総出で労働現場にでている。そして、以前は職人(男性)ひとりがかせいでいた賃金を家族総出でかせぐようになった。大工場制が職人わざを分解し、非熟練化することで……って資本のおぞましい運動を描写したのはマルクスたちだったよね。■そのころ、イギリスとか資本主義の先進地域の女性たちは「家庭内オートメーション化によって浮いた労働力」に変質していたってか? さすが資本主義の最先端。すごいな(笑)。
■ちがうだろ。いつだって、資本は女性たちを労働力の需給の安全弁として、いいように利用してきたんだよな。「ネコのてもかりたい」時期には、どんどん「家庭外」におびきだし、いらなくなったら どんどん「くびきり」。そのくりかえしだったじゃないか?
■そういった、資本・経営がわの「ごつごう主義」「てまえがって」を擁護するような哲学者は、いらんよ。単なる、新自由主義の正当化じゃない。「無学」なオヤジたちでも くちばしれるようなさ(笑)。■上野さんたちの発想に限界がある。資本・経営のがわに利用されるだけだっていう批判は、一見カッコよさげだけど、じゃどうすればいいの。■解答は、簡単なんだよね。「将来ロボットやコンピュータによるオートメーション化が進んでも、それらによって代替されることがない仕事をしている人たち」以外は、貧乏でもしかたがありません、って、それだけだから(笑)。
■要は、ワークシェアリング/男女平等とかの理念についていけないから、反対しているだけなんでは?■日本のいまの方向性がダメなら、北欧などのとりくみは、導入不能なのか、それこそ証明しないと全然説得力ないぞ。