前回の紹介で、基礎知識のある層なら、ことの概要がつかめているはずだが、一応問題の本質を再整理しておく。

■?中国大陸 山西省に日本軍の組織が残存し、かつ何年にもわたって組織的に戦闘行為をおこなっていたという事実は、ポツダム宣言〔1945/07/26〕第9条* および降伏文書(1945/09/02)**がもとめる「武装解除」命令に違反し、かつ昭和天皇ヒロヒトが発した「降伏文書調印に関する詔書***にも反する=国家として矛盾する重大事だった。
* 九 日本国軍隊ハ完全ニ武装ヲ解除セラレタル後各自ノ家庭ニ復帰シ平和的且生産的ノ生活ヲ営ムノ機会ヲ得シメラルベシ
(9) The Japanese military forces, after being completely disarmed, shall be permitted to return to their homes with the opportunity to lead peaceful and productive lives.

** 下名ハ茲ニ日本帝国大本営ガ何レノ位置ニ在ルヲ問ハズ一切ノ日本国軍隊及日本国ノ支配下ニ在ル一切ノ軍隊ノ指揮官ニ対シ自身及其ノ支配下ニ在ル一切ノ軍隊ガ無条件ニ降伏スベキ旨ノ命令ヲ直ニ発スルコトヲ命ズ

*** 朕ハ朕カ臣民ニ対シ、敵対行為ヲ直ニ止メ武器ヲ措キ且降伏文書ノ一切ノ条項並ニ帝国政府及大本営ノ発スル一般命令ヲ誠実ニ履行セムコトヲ命ス

■?司令官だった澄田中将は、国民党系の軍閥 閻錫山からもちかけられた密約にのるかたちで、形式的には敗残兵が軍名にそむいて、脱走したうえで、かってに義勇兵・傭兵として国民党軍の軍律・指揮命令にしたがったというタテマエで、完全な武装解除をのがれようとした。■つまり、軍隊を全面的に解体されることとなった「日本本土」とは別個の、隠密臨時政府的な軍組織を温存しようとはかったのである。■澄田らからすれば、組織的でないとウソぶきつづけることで、ポツダム宣言に違反したとというそしりをまぬがれ、しかも 「きのうの敵は、きょうのとも」で、国民党勢力とともに共産党軍をおしとどめ、一部でも中国大陸に実効支配をかちとれれば、完全な亡命政権たりえると、かんがえたのだろう。■ポツダム宣言の主体は、米英中3国であり、中国とは国民党政権=中華民国であったから、共産党軍との対立はポツダム宣言の趣旨にも反しないということだろう(笑)。

■?問題は、こういった軍律違反、国家に対する離反行為だけではない。■澄田らは共産党軍に圧倒されて敗北を自覚すると、残存勢力に戦闘行為=敗走をつづけさせながら、閻錫山らとともに、中国大陸を脱出してしまう。■しかも、「澄田」といったなまえでは、中国共産党政権に捕縛され、戦争犯罪人としてとりしらべをうけ、必然的にA級戦犯としてさばかれる身にあることを自覚したために、偽名をつかい民間団体メンバーとして、日本に帰国するというルートまで確保させた。■マッカーサーらと直接あって、戦犯として処罰されないような「とりひき」をしたようだ。大陸中国を共産党勢力が制圧し、国民党勢力は敗走、台湾に亡命政権を維持するのやっとという地政学的状況は、「極東」での冷戦の開始であったから、アメリカ軍首脳部は、澄田ら「戦争犯罪人」と「とりひき」するにやぶさかではなかったろう。■このずるがしこさには、したをまく。
■ともかく、澄田らは、文書まで発して戦闘行為を指揮して(しかも、軍隊の目的=武装解除をまぬがれ、国体の復活を模索する=まで明言して)組織的に参戦したいたことをかくしとおすために、例のタテマエを国会などでも証言していたようだ。■つまり、部下たちを徹底的にあざむき、手段化し、うまくいかなくなると、完全にうらぎって、きりすて、トコトン保身にまわったのである。

■?しかし、こういった日本軍のみにくさという体質をいかんなく発揮したたちまわりは、日本政府にとっても、つごうのよいものであった。■なぜなら、(a) ポツダム宣言受諾という、いやいやのんだ事態を、起死回生で逆転するという構想を模索した集団が国際的に大問題化しなかったこと。(b) 交戦・工作に失敗したあとは兵たちを非情にもみすて、ヤミに葬り、「しらぬぞんぜぬ」で、シラをきりとおすことで、国際社会に対する対面をつくろうこと。このふたつがみたされれば、あとは、アメリカからとがめられねば、なにも問題はないのであった。■この卑劣漢集団の本質が、じつにみぐるしく露呈している。

■?このように、まぎれもない正規軍でさえも、完全にダマして手段化し、非情にきりすて、戦後補償も徹底的に「ごつごう主義」で無視・拒絶できるような、卑劣な「国体」であれば、被爆者や旧植民地出身者たちなど、戦争犠牲者・協力者に、非情なしうちをとおして、はじないのは、むしろ当然だったといえる。■沖縄戦でのハレンチとならんで、日本軍上層部の、徹底的な無節操・状況主義が、この映画/パンフレットと新書で、一望できるわけだ。
■もちろん、前回紹介したようなリンクなどで、事実確認を各自がする必要があるが。
【つづく】


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