■「コドモはオヤをえらべない(トホホな漢字人名)」「つけたい名前のイメージ(ベネッセ)」の続編。 

女子大生が命名辞典 椙山女学園大
2006年08月15日(asahi.comキャッシュ)


 心愛(ここあ)、大也(だいや)、宇宙(こすも)――。「将来生まれてくる赤ちゃんにつけたい名前」をテーマに、椙山女学園大学(名古屋市千種区)の加藤主税(ちから)教授(59)と人間関係学部のゼミ生がユニークな小冊子を作った。題して「女子大生がマジにつけたい『赤ちゃん名』事典」。約千人の女子大学生が考えた個性あふれる名前が収録されている。(小松隆次郎)
 「あなたに赤ちゃんができる予定です。名前を考えてください。赤ちゃんはその名前で一生過ごしますので、責任の大きさを十分認識してください」
 加藤教授は言葉の研究が専門。03年4月から3年間、受け持った講義で学生にこう呼びかけてアイデアを募った。理由や由来を重視し、個性的な名前を提案してもらうことも注文した。
 約3千の名前が集まり、加藤教授の指導するゼミ生18人が昨年10月から半年間かけて選別。「季節」「日本的」「外国的」「男女共通」「現代的」などのテーマ別に分け、小冊子に収録する約300に絞り込んだ。
 例えば「季節」には、涼(すず)、一夏(ちか)など。風(ういんど)、十夢(とむ)などは、「外国的」。一護(いちご)、空(そら)は「男女共通」で使えそうだという。
 提案者の「由来説明」とともに、ゼミ生の少し辛口の感想も加えた。
 「夢を持って育つように」との願いが込められた夢(ゆめ)には「小さいころは可愛い名前だけど、大きくなるとキツイ」。「優しく美しい子に。優れている子にもなって欲しい」と期待がつまった優美(ゆうみ)にも「由来が欲張りすぎ」と手厳しい。
 ゼミ生の山下里絵子さん(22)と筒井麻美さん(21)は「同じ名前なのに由来がまったく違うケースもあり、選ぶのが大変だった」と、苦労した編集作業を振り返る。
 「両親や夫の意見が考慮されていないせいか、女子大生のオリジナリティーが詰まっていて面白い」と加藤教授。ゼミ生たちの好みで決めたランキング=表=について、「最近の実際の命名ランキングとはだいぶ違うようだ。子どもを産むと少し現実的になるのかもしれない」と分析する。
 加藤教授の研究では、7割の人は親たちに決めてもらった自分の名前を気に入っているらしい。「名前は親から子どもへの最初のプレゼント。しっかり考えるべきだ」と強調し、「名前をつけたいと思えば赤ちゃんも欲しくなり、少子化対策にもつながるはずだ」とも期待している。
 小冊子にはゼミで議論する場面の写真や、ゼミ生が描いたイラストも盛り込まれている。A5判、101ページ。9月にも出版する予定だ。

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■コドモのなまえが おもに社会的上層の命名を手本にしたかたちで、時間差で中層・下層へと伝播するという構造があり、それゆえ 階層や「人種」ごとの命名の分布がみごとに つよい相関をしめすことをアメリカ社会で立証したのが、アメリカの経済学者のレヴィ ット氏の『ヤバい経済学(Freakonomics)』(東洋経済新報社,第6章)だが、近代日本でも女子学習院および その前身である華族女学校で、「○○子」というなまえが流行したことの大衆化は、以前から指摘されている。■また、テレビの影響力が社会階層によってことなり、それが学業成績における階層格差およびコミュニケーション能力の格差として統計的有意が観測できるといった仮説の妥当性はともかく、テレビを介したタレントの芸名が大衆化したという歴史的経緯も、やはり上位者のマネという微視的構図が列島で大量におきたことは、否定できないだろう〔金原克範『“子”のつく名前の女の子は頭がいい―情報社会の家族』洋泉社新書y〕。
■そして、最近は、ニホンの漢字表記の特殊性もあいまって、非常に ひとりよがりで イメージ先行の極端な「あて字」が横行し、もはや他者の理解を考慮しない自己満足的命名・表記が爆発的にふえつつあるとおもわれる。■乱暴ないいかたをするなら、高度経済成長期以降に急増したのが「源氏名」や「芸名」のマネの流行=一般化であるとすれば、近年ふえているのは、暴走族ヤンキーなど、「はすっぱ」系(酒井順子)の言語感覚の大衆化といえそうだ。

■ところで、男女ともに、オヤの過剰なおもいれが、奇妙な漢字依存をうんでいることはあきらかで、要は、ニホンジンのなまえの相当部分が「なまえまけ」である(笑)ことは ごく普通のことだろう。■それなのに「「夢を持って育つように」との願いが込められた夢(ゆめ)には「小さいころは可愛い名前だけど、大きくなるとキツイ」。「優しく美しい子に。優れている子にもなって欲しい」と期待がつまった優美(ゆうみ)にも「由来が欲張りすぎ」と手厳しい」とは、それこそ なにさまの つもりなんだろう? ■自分自身は、「なまえまけ」していない、ごリッパな人格・能力・容姿なのか? そんなはずなかろう(笑)。■日本語漢字の「あて字」文化を悪用した、トンデモ命名は問題だが、ごく普通の「おやバカ」から、期待たっぷりの 「ゆめはおおきく」系の命名は、ほほえましいはず(笑)。
■ちなみに、「名前は親から子どもへの最初のプレゼント。しっかり考えるべきだ」はいいとして、「名前をつけたいと思えば赤ちゃんも欲しくなり、少子化対策にもつながるはずだ」っていう加藤先生の期待は、はずれそうだ。■こんな作業で少子化にはどめがかかるような巨視的・微視的構造でないことは、いちいち論証するまでもなかろう。

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