■前回、安倍氏の「ゆとり教育」などの責任転嫁を問題をちょっとだけとりあげた。■こういった政策上の失敗とかれらが判断するものについては、「野党や左翼勢力ないし無責任な言論人・知識人がチャチャをいれてジャマしたからだ」といいはり、かたや、うまくいったと自画自賛できるとおもったことに関しては、これら「外野」からの圧力をうけて妥協してとりいれたものまでも、みずからの「てがら」で他力無用だったような、実にこずるい手法。■これは、保守政治家や官僚たちに共通したものかもしれないが、もちろん安倍氏もこういった体質を「ゆとり教育」批判以外にも露呈している。
■たとえば、かれが人気を急上昇させた決定的なきっかけになったとされる、日本人拉致被害者問題もそうだ。
■日本人拉致被害者問題については、カマヤンが「救う会」や安倍氏らの不審な部分をとりあげているし、いわゆる「遺骨問題」でも、安倍氏の「貢献」について疑義を呈してあるので、ここではふれるにとどめておく。■問題は、朝鮮労働党幹部と在日コネクションをとおしてパイプを形成してきた旧社会党系などの無策を暗に難じておきながら〔p.44〕、そのあいだ政府・与党自民党のコリアン・コネクションたちが、なにをしていたのか、その無能・無策ぶりについては追及をしないのである。■あまっさえ、「外務省は一貫して、「外交努力はしているのだから、静かにしてほしい」という態度だった。国に見捨てられたかれらが、悲痛な思いで立ち上がっているのだ。わたしたち政治家は、それにこたえる義務がある」などと、リキんでみせる。
■これは、近年の「日本人拉致被害者問題」の突破口が小泉首相の突進なしにはかんがえられなかったこともあって、おそらく、「東アジア外交で強行突破をはかれる有数の政治家」というブランド・イメージを小泉首相からバトンタッチできると、ふんでのことだろう。■しかし、安倍氏らの挙動が不審であることは、「横田めぐみさんの生死問題(安倍晋三官房長官ほか政府の対応とメディア)」などをみればあきらかで、かれはなにもヒーローなんかじゃない。■むしろ、かのじょたち被害者を利用してはじない連中ではないか
〔おびただしい疑惑にこたえる説明責任がある〕
■それはともかく、Wikipedia「北朝鮮による日本人拉致問題」のつぎのような記述は、与党自民党自体が無策でありつづけ、単に外務官僚の問題ではないことがあきらかだ。

……1990年代前半までメディアや国民の多くは拉致問題に無理解・無関心であり、日本政府も事実上無視していた。それ以前は、1980年に公明党の議員が拉致に関する質問をしたが、当時政府は拉致が確認できないと言う答弁をしていた。その後、1988年に日本共産党の議員が福井、新潟、鹿児島のアベック拉致容疑事案と辛光洙事件に関する質問をし、これに対して当時の梶山静六国家公安委員長が北朝鮮による拉致の疑いが濃厚という答弁をし、警察庁が初めて北朝鮮による拉致の疑いがあると初めて答弁した(このことは2002年の参議院内閣委員会において谷垣禎一国家公安委員長(当時)も公明党の参議院議員の質問に対してこのときが政府が拉致の疑いがあると答弁したのが最初である、と答弁している)。しかし、その後はまたしてもこの問題は国会では闇に葬られたままとなっていた。
……


■このWikipediaの記述は、「世論」という項目で、中心はメディアがいかに無関心であったか、一度問題にひがつくと、非常に感情的にキャンペーンをはったという無定見・無節操ぶりを難じ、あるいは在日各層の動揺ぶりなどをのべている箇所だが、はからずも与党自民党自体が、実に無能・無策で、本気でやる姿勢などなかったことが、はっきりみてとれる。■したがって、「国に見捨てられたかれら」という表現の「国」には、あきらかに戦後政治を事実上独裁してきた自民党がふくまれる。これを外務官僚に責任転嫁して「わたしたち政治家は、それにこたえる義務がある」などとリキめる根拠はどこにあるのだろう?■これが、「プレ小泉」世代の自民党幹部たちへの皮肉、決別宣言であるなら、一応のスジはとおる。■しかし、そのなかに系譜を充分に意識し、またそのようにメディアとのあいだで共通理解ができているはずの、岸信介・安倍晋太郎ラインという保守本流も当然ふくまれるということだ。
■安倍氏は、「救う会」をはじめとする被害者・家族のがわにたって正義の味方をきどっているが、「かれらが」「見捨てられた」国のなかから、岸信介・安倍晋太郎ラインという保守本流をはずせるかのような論理は成立不能であることを、確認しよう。すくなくとも、安倍晋太郎氏は、拉致が実行されていたと公式認定されている1977年内閣官房長官(?1978年)、1982年から86年のながきにわたって外務大臣をつとめたわけで、安倍晋太郎氏が、これらの事実に無知だったとは、到底かんがえられないのだ。なにしろ、岸信介以来のコリアン・コネクションの中軸なんだからね(笑)。
【つづく】
【シリーズ記事】「『美しい国へ』ノート1」「『美しい国へ』ノート2