■先日の9月10日はWHO(世界保健機関)のさだめる「世界自殺予防デー」である。■ことし6月15日に成立した自殺対策基本法は、8年連続で3万人をこえた自殺が社会問題化した結果といえるだろう。

自殺者、8年連続で3万人を超える
40代以下も著しく増加

 昨年1年間に国内で自殺した人は3万2552人で、98年以来、横ばいの高止まり状態が続いている。男女別では、男性が2万3540人で全体の72.3%を占め、この傾向は以前から変わらない

 年齢別では、60歳以上が1万894人で全体の33.5%、次いで50歳代が7586人で23.3%と、50代以降が過半数を占めるが、前年よりわずかながら減少した。

 一方で、40歳代以下の増加が目立つ。40歳代は2.1%増の5208人、30歳代が6.3%増の4606人、20歳代が5.0%増の3409人、19歳以下の少年も3.2%増の608人と続き、各年代で前年より著しく増加した。

 また、原因・動機について遺書があった場合をみると、40歳代、50歳代は「経済・生活問題」がもっとも多いが、60歳以降は「健康問題」がトップだ。働き盛りには仕事上のストレスが大きくのしかかる一方、高齢社会の到来で、健康上の悩みから死を選ぶ人が増えている状況が浮き彫りになった。
自殺企図前の周囲への相談、医療機関受診は非常に少ない

 98年に自殺者が急増して3万人を超えて以来、一向に減らない状態について、専門家はどうみるのか。

 厚生労働省の「自殺企図の実態と予防介入に関する研究」班で主任研究者を務めている東海大学医学部の保坂隆教授(精神医学)は次のように話す。

1度目の自殺で亡くなる人の特徴として、自殺を図る前に周囲の人に相談したり、医療機関を受診することは非常に少ない。しかも、確実に死ねる手段を選んでいる。未遂に終わった人が再び自殺を図らないように周囲が見守ることも大切だが、自殺を図る前になんらかの手を打たないかぎり、自殺者の数を減らすことはむずかしい

 保坂教授らの調査では、自殺者のうち、何度目の自殺で亡くなったのかわかった人の89%は「1度目」の自殺企図だった。自殺を図る前に周囲に相談していた人は18%にとどまった。自殺者の大半が、周囲に自殺をほのめかすことなく、1度目の自殺で確実に命を絶つ覚悟を決めていることがわかる。


「心の安全週間」など、全国規模での啓発活動が必要

 どうしたら自殺を減らすことができるのか。

 保坂教授らの調査結果にもあるように、1度目の自殺で亡くなる人が大半を占めることから、未遂者のケアをするだけでは自殺者は減らない。また、自殺をほのめかすような前ぶれもないため、家族や友人など周囲の人がはたせる役割はかぎられている

 さらに、うつ病は自殺のハイリスク要因とされるように、既遂者にはうつ病の人が多くみられた。うつ病を治療すれば、自殺を減らせるのではないか。

 「うつ病はくすりの服用で治る精神疾患だが、うつ病に対する誤解や偏見から受診に結びつかないケースが少なくない。その意味で、精神科医は自殺予防に関してなす術をもたないといわざるを得ない」と保坂教授。

 だからといって、今のままでよいということではない。

 9月10日はWHO(世界保健機関)が呼びかける「世界自殺予防デー」だ。

 「これを機会に、毎年春と秋に交通安全週間と同じように、『心の安全週間』を1?2週間設けて、全国規模で啓発活動をすべきだ。それ以外に、自殺を予防する方法はない」と保坂教授は訴える。

 また、6月には自殺対策基本法が国会で成立した。自殺を個人の問題と片づけるのではなく、社会全体で共有し、とりくまなければならない課題と位置づけたのが特徴だ。企業を含め社会全体で、心の健康・安全に関心をもち続けたい。
(記事提供:保健同人社)
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■世界では「自殺によって毎年約100万人が死亡して」おり、たとえば「2001年の自殺による総死亡数は、殺人(50万人)や戦争(23万人)による死亡数をはるかに凌いで」いる。■「日本を含むいくつかの国では自殺は主要な死因の1つである…(日本人の死因の第6位で、とりわけ20代、30代では死因のトップ。)」なか、■「2002年以降、日本では年間3万2千人以上が自殺しており、人口に占める自殺率では先進国G7諸国中で1位、OECD加盟国では2位」であり、「国別の自殺率上位10位中、日本以外はすべて東欧・旧ソ連の旧社会主義国であり、旧西側諸国の間では日本が1位である」。

■「日本では、……1998年を境に急増し3万人を超え、それ以降3万人を超え続けている」。■「2002年以降、日本では年間3万2千人以上が自殺しており、……1日に平均88人、16分に1人が自殺している計算になる。2003年の年間自殺者数は3万4千人に達し、統計のある1978年以降で最大となった。人口10万人あたりの自殺者数を表す自殺率も27.0で過去最大」となった。
■自殺未遂者は、既遂者の10?20倍と推定されている
〔統計数値にあらわれない「暗数」〕から、「毎日1000人からの日本人が自殺に追い込まれていることになる。

■つまり、?日本は先進地域でトップクラスの自殺大国である。■?しかも1998年をさかいに異様な急増をしめして、「横ばいの高止まり状態が続いている」ということだ。■そして、?世界的に「各国の男子年齢層別の自殺率を見ると75歳以上の高齢者の自殺率が最も高い国が大半を占めている」のに対して、「世界で最も自殺率が高いリトアニア、ロシアをはじめとする体制移行国では、男子45-54歳(あるいは55-64歳)の自殺率が最も高い。日本もこのグループに属している」点で、バブル経済崩壊後の日本は、とても健康的とはいいがたい時空といえそうだ。

■なかでも、1998年の急増ぶりは異様である。前年の1997年が2万4千人台だったのに、3万2千人台にハネあがっているからだ。■もちろん、自殺かどうかの判断がむずかしいケースなどもまじっているわけだが、殺人事件などと同様、あいまいな領域はすくない。当局の統計手法の変更などもほとんどからまないわけで、実数として3分の1程度ふくれあがったということだ。■21679(1994)→22445(1995)→23104(1996)→24391(1997)という漸増傾向が、32863(1998)と、ハジけた。なにかが、こわれたというべきだろう。そのあと以前の水準を回復することなく、「横ばいの高止まり状態が続いている」ということなのだから。
■社会学者の山田昌弘氏のいう「1998年問題」がそこにみえかくれする〔『パラサイト社会のゆくえ』筑摩新書2004年,pp.24-33,pp.143-5〕。
*

* 「1998年を起点に様々な数字が転換、それも、望ましくない方に転換している」という例のおおくは、認知数であり、暗数問題がからむが。

■日本社会は、あきらかに変質した。そして、もちなおすきざしは、みえていないのである。■いわゆる小泉改革がすこしでも成功したのであれば、自殺者数・自殺率は改善していたはずだ。中高年男性たちの自殺者数が「横ばいの高止まり状態が続いている」ことは、その間接的な反証になっている。■改革には、いたみがつきものと、かれらはいいはなったが。しかし、今後数年で2万人台なかばに回復しないかぎり、小泉改革は、単なる破壊でしかなく、無益ないたみをふやしたことになるだろう。■首相となるらしい安倍氏らが、小泉・竹中両氏らとともに、その責任をおうべきことは、いうまでもない。


■このようにみてくると、精神科医ら医療関係者の努力による、うつ病対策は、重要ではあっても、単なる「対症療法」でしかない。■(けっしてすくなくはない)年間自殺者2万人台なかばまで、せめて回復させるためには、うつ病の予防やら、周囲の自覚などは、焼け石に水だろう。


■世界的に殺人や戦争よりも おおきな被害者をだしつづける自殺は、社会が構造的にくりかえす大量致死である。■自殺者が、一定以上の水準で「維持」されていること自体が、デュルケームらのいう「社会的事実」としての構造的致死であることをしめしている。■巨視的な犠牲者数のおおさをもって、「戦争」になぞらえて、「交通戦争」「経済戦争」「受験戦争」などといわれるが、大量に自殺においこむ社会は、明確な「戦地」をもたないことで自覚されず、それゆえ、まともなリスク対策もたてられない、巨大致死装置=「超戦場」というべきだろう。■その意味で、現代日本社会は、殺人など凶悪事件が相対的にすくないとか、交通事故死者が激減したとかいっても、それらにあまりある「超戦場」といってよい。


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