■別処珠樹さんの『世界の環境ホット!ニュース』のバックナンバーから転載【リンクは、ハラナによる追加】。■シリーズ第22回。■いつもどおり、ハラナがかってにリンクをおぎなっている。

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世界の環境ホットニュース[GEN] 607号 05年09月15日
発行:別処珠樹【転載歓迎】意見・投稿 → ende23@msn.com     
枯葉剤機密カルテル(第22回)     
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枯葉剤機密カルテル           原田 和明

第22回 会社側に立つ労働省

この人体実験の目的は何だったのでしょうか? 三井東圧化学は「実験を野村教授に一任した」(1973年3月27日付 毎日新聞)と答えていますが、熊本大学医学部教授・野村茂は、「三井東圧化学が実験項目を指示した。既にわかっていることばかりで、改めて実験する目的が理解できない。」と 告白しています。
(73.4.3衆院社会労働委員会)

野村は除草剤 PCPを生産していた三光化学(後に三西化学)荒木工場(福岡県久留米市)の 周辺住民に対する 健康調査を 3度にわたり実施した経験があり、PCP245TCPの健康影響は野村にとって「わざわざ実験しなくてもわかっている」ことでした。
しかも、野村は、学会では「小駅に近接して建てられたPCP工場で製造工程において飛散する刺激性煙霧のために地区住民の生活を妨害し、健康上においても皮膚粘膜刺激症状と神経症状があらわれていた」(昭和38年10月、第20回 日本公衆衛生学会)などと発表しておきながら、第二回検診後の報告書の結論は「明らかにPCP中毒を疑うべきものが見出されなかった」であり、野村報告書の最終結論も「有所見者が必ずしも工場からの煙霧と関連あるものとは考えられなかった」とするなど、結論部分を意図的に使い分けています。行政も報告書の結論から「因果関係なし」として 住民の訴えを 放置しつづけたのです。(「三西化学農薬被害事件裁判資料集」葦書房)

石母田達(共産党)の追及に対して監督官庁である労働省は「テスト自体は合法で、ただ本人に無断でテストしたことは問題がある」との立場をとっていました。(73.4.3衆院社会労働委員会)

石母田が

「労働省は、工場が本人に無断でやったことだけを問題だと言っているが、生産中止になった有毒な、しかも枯葉剤の原料となる薬品でテストすること自体問題ではないのか?」

と質したのに対し、労働大臣・加藤 常太郎は

「枯葉作戦に使ったとかいうようなことから、相当な危険な薬品であることには間違いはないと思うが、健康管理の見地からこれを試用した行為ではあったけれども、どうも危険性がある。今後そのようなことがないように十分留意をするように通達を発したいと思います。」

と答えました。そのときです、「枯れ葉にはあるかもしらぬけれども、人体にはあまり毒はないのではないか」との野次がとびました。石母田は野次にも反論しています。

「そういう人がいますのでもう一ぺん申しますが、245TCPの中毒患者が35人すでに被患しておる、そしてそのうちの8人が熊本大の付属病院に治療中である。PCPについては32人が被患して、24人が治療中である。こういう薬品でこうした問題が起きておるから、今度の実験という問題が出ておるわけです。」

労働省の誠意のない答弁に石母田の質疑は悲痛なものになっていきます。

石母田達
「こういう非常に重大な問題なんです。御承知のように、大牟田というのは、行ってみればわかりますけれども、公害の町なんです。これは、公害の発生する中で最も大きなものは、三井東圧化学といわれておるのです。あの大牟田川がああいう「七色の川」といわれて、日本でも最大の汚染の川となっている一つは、この三井東圧化学の廃液を流し込んだからです。そうして、この会社が爆発事故や有毒ガスの漏れなどで何回も事故を起こし、さらにこのように、製品を生産している中で、PCPやあるいは245TCP、ベンジン、そうしたもののために多数の職業病が出ており、労働者に被害を与えておる工場なんです。こういう公害大企業がまたしてもこういう問題を起こしたことに対して、労働省が、いま政府の全体の方向からいっても、この公害大企業に徹底的にメスを加えていかなくちゃならぬ。こういう問題が起きたときにこそ、厳重にやっていかなければならぬ。

ところが、いま話を聞いてみると、厳重に注意したと言うけれども、具体的には何にもないでしょう。そうして、むしろ、労働省の見解というものは私には弁護しているとしか思えない。この実態をほんとうにつかんでこれを追及していく方向でなくて、何かパッチテストは許されているのだ、だから医療上は問題ない、そういうような煙幕を張る方向に行っている。こういう大企業に対しては私は徹底的に追及して――このような労働者の生命、健康、それから公害を軽んずるようなそういう大企業に対しては、徹底的な追及をしていかなくちゃならぬ。そういう点では、この新聞に発表された、先ほど皆さんが発表されている労働省の見解、政府の見解というものは私はきわめて不十分である、こういう点をぜひともいま言ったような方向で直していただきたい。」

労働大臣・加藤は「まったく同感です。」と答えただけで結局、国会でも三井東圧化学が行なった人体実験の目的は明らかにされませんでした。次回、その目的を推理してみたいと思います。

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■何度も紹介したとおり、先日なくなった梶田孝道氏が指摘するような、行政・学問は、業界関係者の利害調整のための組織・制度であって、被害住民の権利第一になどたたないという構造的体質がある。■企業のOBが労基署の職員として、内部告発を企業がわにもらしてしまうといった言語道断のケースはともかく、アリバイ的に労働者の権利をまもっているポーズだけとるのが厚生労働省の基本体質だとおもっていい。
■ま、こういった くちさきばかりの労働大臣がいたのは、ごく当然だといえるだろう。