■きのうの、朝日の記事。

受刑者の診療要請を拒否 
出所後にがん 佐賀少年刑務所

2006年09月28日09時17分(asahi.com)
 佐賀少年刑務所(佐賀市、長野信行所長)に服役していた福岡市内の男性(37)が、所内で下血したことなどから「がんだ」と訴えたのに十分な診察を受けられず、出所直後に訪れた病院で進行した大腸がんと診断されていたことがわかった。服役中に発症していた可能性が高いという。男性は「刑務所内の医療対応のミス」として、近く国家賠償請求訴訟を起こす方針だ。

 男性は窃盗罪で懲役3年の判決を受け、03年7月に服役した。男性や代理人の弁護士によると、体調の異変を感じたのは04年4月ごろ。下血したため、刑務官に医師による診察を求めたが応じてもらえず、痔(じ)の薬を手渡された。

 その薬を半年ほど服用したが下血は止まらず、05年7月には大量出血。がんを疑った男性は改めて診察を求めたが、受け入れられなかった。12月に採血はされたものの、3日後に「がんではなかった」と告げられた。出所直前の今年1月半ば、所内に常駐する医師の診察を初めて受けたが、触診のみで痔と診断されたという。
 男性は2月2日に満期出所し、同17日に九州大病院で検査を受けたところ、かなり進行した大腸がんと診断された。この時点で、重い方から4?1の4段階で示すがんの進行度は「3」で、リンパにも転移していた。3月に手術を受け、現在も抗がん剤の投薬を続けている。

 同刑務所によると、所内には医師1人と看護師ら計5人の医療スタッフが常駐し、必要に応じて外部の医療機関にも相談。年に1回程度は健康診断をするほか、受刑者からの訴えがあれば必要に応じて医師による診察を受けさせているという。

 これに対し、男性は「健康診断といっても身長・体重と血圧の測定のみ。レントゲン撮影も3年間で1回。何度訴えても取り合ってくれなかった。早く対応してくれていれば、がんの進行も止められた」と話す。訴訟の中で、刑務所内の医療態勢のあり方や一連の経緯を明らかにしたいという。

 法務省矯正局によると、刑務所内の医療態勢は「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律」や大臣訓令によって(1)入所後、年に1回以上の健康診断(2)症状がある場合、医師がいる施設では常勤医師に、医師不在の施設では非常勤医師に診察を依頼(3)重篤の場合は外部の病院などに連れて行く――などと決まっているという。

 佐賀少年刑務所の収容者は9月末現在、少年と成人を合わせて約700人。

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■以前、「未必の故意か? 福祉行政の不作為」かという文章をかいた。生活保護申請をうけつけないでおいかえすという福祉行政の「水際作戦」の暴力性を批判した文章だ。

前回紹介した事例は、ことの当否はともかく、本人の自尊心もからんだ、「尊厳死」的性格がいなめない。■しかし、この事例は、「水際作戦」の典型例だろう。こんなかたちで、「不正受給」防止率をあげているといった成果主義を追及したって、うらまれるだけだろう。福祉行政に冷淡で弱者に冷淡な納税者だって、さすがにこの事例では気分がよくあるまい。
■これは、一種の犯罪だとおもう。■それも事実誤認/連絡ミスの連載による過失致死というより、未必の故意の可能性もあるような気がする。「不正受給者数十人をふせげるなら、『誤爆』的に犠牲者がひとりやふたりでもて、しかたがない。それは、いろいろな意味で節税になる」ってね。


■この件について、いまだに「さすがに いいすぎたか」とはおもっていない。■なぜなら、「ひとりでも犠牲者をだしてはならない」という警戒感とか倫理観があったなら、男性の危機的状況をみおとしたはずがないからだ。
■さて、今回のこの刑務所の件ばあいはどうだろう。■刑務官と医師たちに、気のゆるみがなかっただろうか? ■もちろん、医師のばあいは「触診」が誤診だったということなのだろうが、もし「ひとりでも犠牲者をだしてはならない」という職務意識がはたらいたなら、「痔ではないかもしれないから、とりあえずレントゲン」とか「一応精密検査」となっておもわれる。
■やはり、「受刑者は最低限管理しておけばいい」という、刑務所内の人権感覚のマヒがあるとしかおもえない(「名古屋刑務所暴行致死事件」)。■「1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異状が存在するという」「労働災害における経験則の一つである」「ハインリッヒの法則」をヒントにするなら、「名古屋刑務所暴行致死事件」のような悪質な権力犯罪の背後には数十の医療ミスがあり、その背景にはさらに数百の怠慢・不作為がひそんでいるのではないか?
■刑務所の内部の人間は、無自覚な差別意識から、「受刑者は最低限管理しておけばいい」といった主観で行動するのだろう。■しかし、今回のケースをみても、「最低限」のことも実はできていないし、「受刑者は、究極の弱者の典型である」という根本原理がわかっていないのである。そして、それは刑務所のソトの大衆の無自覚な意識水準にささえられている。「受刑者がヌクヌク刑に服するなって、ゆるさん」という、おぞましい差別意識にね。

■それにしても、Wikipediaの「刑務所」の記述は、関係者がかいたのか、ヨイショ記事でゾッとするな。これが妥当な見解なら、これら一連の不祥事などおきないだろうに。

……
刑務所は極めて閉鎖的かつ特殊な空間で、受刑者はあらゆる自由を制限されるため、様々な人権侵害状態が発生しやすい施設であると言われるが、自由を制限されるのは刑罰を執行されている以上、当然のことであり、マスメディアが取り上げる報道や、出所した者が出版した書籍などを見ていると、日本の刑務所は人権侵害が日常的に行われている印象を受けるが、実際の刑務所の処遇は極めて適正に、かつ公平に行われている。刑務所を見ればその国の人権意識の水準が分かると言われるが、基本的人権を尊重する憲法の理念は、刑務所内でも当然に生きている。

日本の刑務所は、犯罪性を持つ多数の被収容者を管理する必要性から軍隊式などと揶揄される行進や、反則物を持ち込まれないための全裸による身体検査(カンカン踊りなどと揶揄される)、肛門の中をガラス棒で広げて検査する行為、反則を防ぐための動作の制限など受刑者に対して極めて厳格な規則を課す。所内の遵守事項に違反した受刑者には懲罰(閉居罰、図画の閲覧の制限など)が適用される(かつてはもっと厳しい重屏禁も盛り込まれていたが、現在では行われていない)。また、現在の日本の刑務所では、男性受刑者の頭髪に対しては衛生上及び外観の統一性を保つ必要性から丸刈りとされている。厳しい、と言われる刑務所内の規則は、全て、あらゆる被収容者を公平に、かつ規則正しい生活を送らせ、かつ、犯罪性を持つ被収容者に反則を行わせないために必要だからなのである。
……


■実に気色わるいね。■弁護士さんとか、くわしいかた、訂正してほしいな。

■「社会から隔離された見えない所で国の手で行われる獄中処遇を見れば、その国の人権意識のレベルが分かると言われている」とおり、現代日本の人権意識の水準は、今回のケースが象徴しているようにおもえる。


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●ウィキペディア「ハインリッヒの法則
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