■別処珠樹さんの『世界の環境ホット!ニュース』のバックナンバーから転載【リンクは、ハラナによる追加】。■シリーズ第26回。■いつもどおり、ハラナがかってにリンクをおぎなっている。

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世界の環境ホットニュース[GEN] 611号 05年10月04日
発行:別処珠樹【転載歓迎】意見・投稿 → ende23@msn.com     
枯葉剤機密カルテル(第26回)     
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枯葉剤機密カルテル          原田 和明

第26回 秘密会議

1965年3月のまだ寒い朝、米国ミシガン州ミッドランドにある ダウ・ケミカル本社に呼ばれたのはベトナム戦争枯葉剤を供給し、後に枯葉剤訴訟で共に訴えられる在米化学企業のフッカー・ケミカル、ダイヤモンド・アルカリ、ヘラクレスパウダー社の研究者でした。(米誌TIME 1983年5月2日号)

この日の議題は「ダイオキシンが人間の健康に与える影響について」でした。この当時、ダイオキシンについては西ドイツの研究で245Tに不純物として含まれていることはわかっていましたが、公表することは抑えられていたため、化学者でも何となく知っている程度でした。しかし、ダウ・ケミカル社ではミッドランド工場の245T工場で事故があり、多くの従業員が被災したばかりだったため関心が高かったのです。ダウ・ケミカル社の研究者はこの会議で、他社の研究者に向かって除草剤245Tからダイオキシンを減らすことの重要性を説いたのです。

ダウ・ケミカル社は1948年から245Tを生産販売していましたが、ベトナムの枯葉作戦による需要増に対応するために、1963年に原料を従来のフェノールからベンゼンに変更した新工場を建設。事故は操業まもないこの工場で起きました。原料の変更で ダイオキシンの中でも 最も毒性の高い 2378 四塩化ダイオキシン(「2378」は塩素の位置を表している)の濃度が急上昇したことが原因でした。
ダウ・ケミカル社は工場を停止し、ベーリンガー社からライセンスの提供を受け、500万ドルの費用をかけて プロセスを改良、66年に操業を再開しました。その結果ダイオキシン濃度は平均 1818ppm から 0.5ppm にまで激減したのです。ダウ・ケミカル本社での秘密会議はその間の出来事でした。当時ダイオキシン分析技術が未熟なため数値化できず、薬剤をウサギの耳に塗布してそのかぶれ具合からダイオキシン濃度を推定していたために2282匹のウサギが使われまし
ベーリンガー社はその後、ベトナム向けに245Tを生産していたイワンワトキンスダウ社(ニュージーランド)に原料である245TCPなどを輸出しました。そして輸出の好調さ、つまりベトナムでの枯葉作戦の本格化からベーリンガー社ではダイオキシン濃度が高くなることを承知で反応温度を上げ、反応時間を短縮して生産性をあげたことを認めています。(河村宏・綿貫礼子「毒物ダイオキシン」技術と人間1986)ダウ・ケミカル社にとっても米軍にとっても実際に製品中のダイオキシン濃度が減っているかどうかは重要ではなかったのです。

同業者にダイオキシンを低減せよとアドバイスしたこの秘密会議は、一見ダウ・ケミカル社の気前のよい善意のジェスチャーに見えますが、秘密会議の参加者のメモによるとダウ・ケミカル社の目的は他のところにあったと見られていたようです。ヘラクレス パウダー社からの参加者は 次のように書いています。「彼ら[ダウ] は、特に農薬製造に関する議会による 調査と 過度の法規制を 恐れている。」と。

さらに、ダウ・ケミカル社の行為が善意に基づくものでないことを示す事件が続きました。秘密会議に続く65年から66年にかけてダウ・ケミカル社がペンシルバニア州のホルムズバーグ刑務所の囚人70人に対し、ダイオキシンを皮膚に貼って人体毒性を確認するための「人体実験」を行ないました。「ウサギの耳実験」を人間で試したのでしょう。1973年に行なわれた三井東圧化学の人体実験もこれに倣ったものと考えられます。ダウ・ケミカル社は皮膚症状だけがみられたと述べていますが、このときの人体実験の診断記録はその後「紛失」とされていて実験の詳細もその結果も不明です。その後の被験者の救済要請も米環境保護庁は無視しました。(L.M.ギブス「21世紀への草の根ダイオキシン戦略」ゼスト)。
米環境保護庁はなぜ無視したのでしょうか? それは米国では政府と民間企業の間で人事交流が盛んで、大手化学企業の社員が米環境保護庁の主要ポストに就いているケースがよくある(エコロジスト誌編集部「モンサントファイル」緑風出版1999)ことと無関係とは思えませんその後米国の研究機関が、245Tに強い催奇性があり、その原因がダイオキシンであることを確認していますが、米軍はそれらの情報を得た上で、枯葉作戦を他の薬剤から245T中心に切り替え、67年春に米国内の生産能力をはるかに超える膨大な量の245Tを発注したのです。

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■利潤追求や人気とり以外の純粋な社会貢献を目的とする活動をおこなう企業も、例外的にある。しかし、大半において、広義の利潤追求に無関係な企業活動はありえない。■ダイオキシン濃度をへらすという操作も、やはりそうだった。
■そして、行政当局が被害者など弱者のための組織ではなく、基本的には業界関係者の利害の調整機関であるという普遍的な構造が、このケースでもたしかめられた。■日本の厚生労働省や環境省などの実質的機能をみていくときにも、かかせない視点だろう。
■それにしても、人体実験の卑劣さを、アメリカからコピーするなど、当時の人権意識のひくさが現在もいきのこっていることは、さすがになかろうが、監視が必要なことはいうまでもない。