■昨年末の「ことしの20冊:2005年」でもとりあげた、「働きすぎの時代」の著者 森岡孝二さんが『朝日新聞』土曜版「be on Saturday」の「b-business」一面をかざる「フロントランナー」でとりあげられた。

手弁当で株主率い、大手企業を監視10年
株主オンブズマン代表
森岡孝二さん(62歳)

 「株主オンブズマン」が今年発足10周年を迎えた。
 株主の権限を駆使して、公開企業を監視し、不正や違法行為をただす市民団体だ。雪印乳業に安全担当の社外取締役として消費者運動経験者を選任させたり、熊谷組株主代表訴訟で新聞の1面トップを飾る判決を勝ち取ったりしてきた。発足以来、関西大学経済学部教授の傍ら、その代表を務めている。

 10月中旬、記念の講演会を地元、大阪で開いた。会場には会員ら100人余りが関西だけでなく首都圏からも駆けつけた。あちこちで「ごぶさた」「元気そうやね」とあいさつが交わされ、肩をたたき合う。
 「どたばた、手弁当ばかりなのに、よくここまでやってきました」。開会の辞でこうで語ると、会場は笑いに包まれた。
 この日も、代表自ら、ロンドン大学名誉教授のロナルド・ドーア氏が講演で使うパソコンを調整したり、看板を張り付けたりして大忙しだった。それでも「社長兼小使いですから」と言ってニコニコしている。

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 6月下旬、東京のホテルで開かれたソニーの株主総会に出席した。オンブズマンは02年から毎年、取締役の個人別報酬額を開示する議案を出している。

 会場で7000人余りの株主を前に提案理由を説明した。
 「個別開示は世界的な流れ。ソニーはグローバル企業ではないのか」
 取締役会は議案書に報酬総額の開示で「十分」とする反対意見を載せていたが、株主席から拍手が起こった。
 オンブズマンの会員ではない中年男性が質問に立った。「今日、この会場に来るまでは個別の開示は必要ないと思っていたが、日本的な文化を変えていかないといけない」。オンブズマンへの賛成意見だった。
 議決権行使書の集計の結果、賛成は46.7%に達した。賛成率は02年の27.2%から毎年上がっている。ソニーは賛否のどちらにも印のない白票は、株主提案では反対、会社提案では賛成と数える。白票の数は「総会後3カ月で議決権行使書を処分しており、もうわからない」とソニーは説明する。白票を除けば、賛成が過半数に達していたかもしれない。

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 86年、ロンドン留学中に心臓発作で倒れ、帰国後、手術をした。やはり心臓疾患で同室にいた大手企業の部長クラスの男性が「窓際にやられてしまう」と心配し、入院を会社に隠そうとしていた。それをきっかけに過労死問題に取り組み始めた。
 もともと、「労働時間」と「株式会社」を研究の柱に据えてきた。「労働は経済の土台。株式会社はその上につくられた構造物。この両方を見ないと本当の経済は見えない」
 今、米国人の著作を翻訳している。「ワーキング・プア」というタイトルで来月出版する。格差社会も視野に入れている



文・高谷秀男
写真・西畑志朗


■株主が東京から大阪まで委任状を持参してくれた

 ――この10年、どんな活動をしてきたんですか。

 森岡 ざっと七つに整理できます。株主総会をオープンにする活動、企業の不正事件に対する株主代表訴訟、政治献金をやめさせる代表訴訟、いろいろな株主提案、粉飾決算の損害賠償請求訴訟、障害者の法定雇用率を守らせる運動、それからアンケートなどの調査です。

■はがき片っ端

 ――総会は変わりましたか。

 森岡 満足ではないですが、かなり様変わりしてきました。総会屋は論外として、以前は社員株主が会場の前方に陣取って「異議なーし」「議事進行」と唱和するのが当たり前でした。ところが、銅の不正取引で2800億円の損失を出した住友商事の96年の総会で質問を封じられた株主がうちに入会し、総会決議の取り消しを求める裁判を起こしました。取り消しは認められませんでしたが、会社が一方的に議事を進めることは「法の趣旨を損ない、総会を形骸(けいがい)化させる恐れが大きい」と、判決は「シャンシャン総会」を批判しました。以来、総会での質問が増え、会社の受け答えも丁寧になってきました。

 ――株主代表訴訟の取り組みが一番有名です。

 森岡 30件近くやりました。総会屋に利益供与した高島屋野村証券味の素神戸製鋼所や、汚職事件を起こした大林組、談合をやった日立製作所、欠陥隠しの三菱自動車などです。これらは和解が成立し、役員らが会社に何億円も支払ったり、コンプライアンス(法令遵(じゅん)守(しゅ))体制の確立を約束したりしました。経営危機でも政治献金を続けてきた熊谷組の代表訴訟は一審が画期的な勝利でしたが、二審でひっくり返り、最高裁で係属中です。

 ――代表訴訟はどうやって起こすのですか。

 森岡 1単元以上の株主で、半年以上前から株主であれば誰でも起こせます。1単元は100株だったり1000株だったり、会社ごとに決まっています。まず、不正を働いた役員を訴えるように会社に請求します。会社が動かなければ、訴訟を起こします。大蔵省の接待汚職事件では、98年に住友銀行の役員らに接待費用を銀行に返すように求めたら、1カ月後、195万円の返還があったと監査役から連絡がありました。提訴前に問題が是正された珍しい例です。

 ――株主提案はひとりでは難しいですね。

 森岡 総会に議案を出すには300単元の株式か発行済み株式の1%が必要です。1単元1000株なら30万株です。うちの会員全体で数百社の上場企業の株式を持っていますが、提案権を握っている銘柄はありません。ですから、会社に株主名簿を請求し、それを使って賛同者を募ります。以前は片っ端からはがきを送りましたが、しんどいので今は持ち株の多い個人株主に絞って、必要な株数の10倍くらいカバーするように送っています。そのうちの1?2割は賛成してくれますから、提案権を確保できるわけです。

 ――たいへんな作業ですね。

 森岡 学生にアルバイトでやってもらうこともありますが、会員で手分けしてこなします。私も文書の作成だけでなく、名簿をパソコンに入力したり、あて名シールを張ったり、何でもします。しかし、賛同してくれる人がたくさんいると、本当にうれしいです。

■迎えたい新人

 ――思い出深い出来事は?

 森岡 わざわざ東京から大阪まで委任状を持ってきてくれた株主がいました。02年、雪印乳業に安全対策を提案すると発表した後です。雪印と取引のある会社の経営者で、10万株の大株主でした。この時は必要数の3倍以上の賛同を得ました。雪印は提案を事前に受け入れ、社外取締役の選任や、商品安全監視委員会を設置することになりました。画期的な成果です。

 ――運動体としての課題はありますか。

 森岡 事務局の体制が弱いことです。株を持っていて、活動する時間がある人というと、どうしても高齢者になります。さらに、専門知識が求められるので、なかなか新しい人が溶け込めない。この10年、中心になって動いているメンバーはずっと変わりません。新しい働き手をどうやって引き込んでいくかが大きな課題です。

 ――財政はいかがですか。

 森岡 それが一番の問題ですね。最初は、有限会社として持ち寄った資本金の300万円を食いつぶしました。その後は、訴訟の和解で得た弁護士報酬の一部を寄付してもらったり、ブックレットの印税をあてたりしました。代表訴訟は、勝っても原告には一切、経済的な利益はありません。会社に金が行くだけです。会社や社会のための大義のような訴訟です。ビジネス感覚ではできません。

 ――海外に同様の団体はあるのですか。

 森岡 米国には株主提案をバックアップするICCRという株主団体があります。ドイツの株主同盟や、うちと交流がある韓国の少額株主運動はずいぶん力を持っています。


◆ 転機 ◆

■軽い気持ちで引き受けたら住専で忙殺

 96年2月8日、大阪市北区のビルの1室で、「株主オンブズマン」の設立総会が開かれた。出席者は10人ほど。それを倍以上の数の新聞記者やテレビクルーが取り囲んだ。

 「これはえらいことになったな」。代表としてカメラのフラッシュやテレビのライトを浴びながら、心配になった。

 代表を引き受けたのは、親しい旧知の松丸正弁護士から前年秋に頼まれたからだった。「それほど忙しくないのなら」と軽い気持ちだった。株主代表訴訟に取り組む運動体とわかってはいたが「当分は勉強会を重ねて、コツコツやっていくのだろう」と高をくくっていた。
 ところが年が明けると、膨大な不良債権を抱える住宅金融専門会社(住専)の処理が大問題となっていた。設立早々、この問題に忙殺されることになる。
 総会の2日後には、電話相談「銀行・住専株主110番」を行い、受話器を握る。3月には政府の住専処理を批判する市民法廷を開く。さらに、株式を上場していた住専の日本住宅金融の個人株主1万5000人にはがきを送り、株主総会で経営者らの責任を追及し、処理策を改めさせるオンブズマンの提案に賛同するよう求めた。
 6月末の総会まで毎週会議や打ち合わせが入り、残った仕事を自宅に持ち帰った。新聞、テレビ、週刊誌から慣れない取材が次々と舞い込み、緊張が続いた。6月を迎えるころには血圧が上がり、足がふらつき、医者に薬を処方してもらった。
 総会では営業譲渡に反対するオンブズマンの提案が3割近い賛成を集めた。営業譲渡否決に必要な3分の1を超えるところまであと一歩の大善戦。「株主の反乱」と報じられた。株主無視の処理策をまとめた政府と、それに沿って営業譲渡を提案した経営陣は肝をつぶした。
 「人生が狂いましたね」
 振り返って、こう冗談を飛ばす。地味な学究生活者が、大きく変身を遂げていた。

44年 大分県豊後大野市生まれ
69年 京都大大学院経済学研究科博士課程退学、大阪外国語大助手
74年 関西大経済学部講師
88年 大阪過労死問題連絡会に参加
96年 株主オンブズマン設立、代表
03年 特定非営利活動法人(NPO)に
04年 同大経済学部長(06年9月まで)

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宇井純さん/原田正純さんのような先生だけでなく、こういう方面でもリッパな先生はいるんだなあと、ただただ感嘆。■ただ、夜回り先生同様、公務にほとんど専心できないんじゃないかとも……。

■それはともかく、民間企業は株主の所有物でなどなく、公器にほかならない。■株主が私利私欲をみたすために、「どこに投資しようと自由」というのは、みぐるしいだけでなく、害悪。■株主たる投資家=資本家には、消費者と労働者の基本的人権を保護する義務がある。「自分たちさえもうかれば、消費者がどうなろうと、労働者がどうふみにじられようと、しったこっちゃない」では、ゆるされない。■まして、企業を私物化する一族支配や「やとわれ重役」連中や、あまくだりの寄生虫どもは、犯罪的存在である。「政治労働」をしているフリだけと。


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