■別処珠樹さんの『世界の環境ホット!ニュース』のバックナンバーから転載【リンクは、ハラナによる追加】。■シリーズ第40回(および前回39回の追加分)。■いつもどおり、ハラナがかってにリンクをおぎなっている。

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世界の環境ホットニュース[GEN] 626号 05年12月13日
発行:別処珠樹【転載歓迎】意見・投稿 → ende23@msn.com     
           枯葉剤機密カルテル(第40回)         
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 枯葉剤機密カルテル           原田 和明

第39回 火の仮説(前回のつづき)

・・・(前回「火の仮説」の末尾に次の3つの段落を付け加えます)・・・

 米国環境保護庁(EPA)は、自然の燃焼によってダイオキシンが作り出される可能性はあるが、環境中のダイオキシン総量に占める割合は、おそらく取るに足らないものである、と結論付けています。(ギプス「21世紀への草の根ダイオキシン戦略」kkゼスト2000)

 それにしても、ダウ・ケミカル社は、枯葉作戦において、敵陣で枯葉剤などの有機塩素化合物を投下後にナパーム弾で焼き払うことでダイオキシンを大量に発生させるというアイデアを提案して、枯葉剤ビジネスで先行するモンサント社をだしぬいたのでした。そうして、自社の枯葉剤とナパーム弾をセットにして米軍に大量に売り込むことに 成功しておきながら、帰還兵らから訴えられると 今度はダイオキシンの発生は山火事などの自然現象であると主張、枯葉剤の有無によるダイオキシン発生量の違いにはあえて触れず、自社の責任回避に都合のよい論理を展開したのです。しかし、この仮説は今でも根強く流布されていて、日本の環境政策にも多大な影響をもたらしました。

 ダウ・ケミカル社は訴訟対策として、「枯葉剤からのダイオキシンの発生」を隠蔽するために発生量の多寡を無視した「自然現象としてのダイオキシンの発生」を主張しましたが、日本ではダウ・ケミカル社の主張を「ごみ焼却によるダイオキシンの発生」に議論をすり替え、新たな「公共事業・ハイテクごみ焼却炉ビジネス」が創造されたのです。



第40回 偽装スキャンダル

 ダウ・ケミカル社のひねりが利いた主張に対し、モンサント社がとった裁判対策はもっと単純でした。ベトナム帰還兵から提訴されそうになるとモンサント社は自社の農薬工場で起きたダイオキシン事故における労働者の被災に関わるデータを改ざんして、ダイオキシンの有害性は低いのだと主張したのです。
 ダイオキシンの毒性に関する調査研究を行なうようモンサント社に持ちかけたのは、独立研究者であるレイモンド・サスキンド博士でした。1976年に起きたイタリアの枯葉剤 245T工場の爆発事故(セベソ事件)でダイオキシン問題にマスコミが関心をもつようになり、この頃、世界中の245T工場が連鎖的に閉鎖しています。(福岡県の三西化学も閉鎖し、三井東圧化学は自社除草剤CNP中のダイオキシン濃度を減らした。)それで、彼はいずれモンサント社がダイオキシン問題で矢面に立たされることを見越しての提案だったのでしょう。

 彼らの手口は簡単でした。ダイオキシンに被曝したグループから死者数を一定量除く、被曝したグループの中で発症した人の一部を被曝しなかったグループに入れる、あるいは逆に被曝せず健康な人を被曝グループに加えるといった手法で、ダイオキシン被曝の有無による死亡率、発症率の違いをなくしてしまうデータの操作をやっていたのです。

 この偽装工作は、1979年に起きた列車脱線事故(モンサント社のジクロロフェノール、サントフェンなどの有機塩素化合物が漏洩)で、ミズーリ州スタージャンの市民グループがモンサント社を訴えた裁判(1989年=枯葉剤訴訟和解後)で初めて明らかにされたのです。

 モンサント社から提出された、ダイオキシンの毒性は低いという証拠資料を再検討する過程で、同社のある研究報告ではダイオキシンに被曝したグループとして分類されていた特定の人たちが、別の研究では被曝しなかった人たちとして分類されていることに気付いたのです。(ギプス「21世紀への草の根ダイオキシン戦略」kkゼスト2000)

 この偽装を見破った人たちは、列車脱線事故裁判の弁護士グループだとする記述(ギプス「21世紀への 草の根 ダイオキシン戦略」kkゼスト2000)、あるいはTBAG(タイムズビーチ事件アクショングループ)という市民団体であるという記述(エコロジスト誌編集部「モンサントファイル」緑風出版1999)とがあります。

 偽装発見の手法は極めて地味なものでした。ひとつの研究の中で集められた研究対象となった人の個人情報(雇用年月日、生年月日、死亡年、死因、喫煙歴)をもうひとつの研究の同じ部分と比較して両者が一致しない部分をひとつひとつ確認していったのです。

 モンサント社のデータ改ざんの結果「ダイオキシン被曝と人間の癌の間に関連はなかった。」となっていた結論も、弁護士たちが補正しなおしたところ、死亡率で 65%アップ、肺ガン143%アップ、生殖器ガン188%アップ、膀胱ガン809%アップなど、軒並みダイオキシンの有害性を示す結果が示されました。

 サスキンドの研究はモンサント社などが帰還兵たちから訴えられ、和解するまでの1980?1984年の間に発表されています。研究対象にはモンサント社がダイオキシンを化学兵器として関心をもつようになった1949年の自社農薬工場の爆発事故も含まれていました。そこでは事故でダイオキシンに被曝した37人の労働者は調査対象とならず、被災しなかった数百人の労働者が調査の対象になっていて、この研究でも、同じようなデータ分類上の操作がされていたのです。(ギプス「21世紀への草の根ダイオキシン戦略」kkゼスト2000)

 もともとサスキンドは、1949年のモンサント社工場爆発事故の被災者を診断した医師でした。サスキンドが勤務していたオハイオ州シンシナティにあるケタリング研究所から環境保護団体グリーンピースが入手した診断書によると、労働者たちは「疼き、痛み、疲労、神経 過敏、性欲喪失、苛立ち感、および その他の症状・・・進行性皮膚疾患、心理的障害の一定のパターン」に苦しんでいました。彼はまた37人の被災者のうち1人を除いて重度の塩素挫瘡に罹っていることを発見していましたが、モンサント社への当時の報告書の中で、彼は何の説明も加えずに「見出されたのは皮膚障害に限られていた。」と結論付けていたのです。これらの研究から、塩素挫瘡が唯一の長期的なダイオキシン被爆の影響である、という企業側の主張が生まれたのです。

 なぜダイオキシンが「史上最悪の毒物」と呼ばれているか、これまでの長い話を読んでくださった方々には単に「ふぐ毒やボツリヌス菌など天然にはダイオキシンよりも毒性の高いものがたくさんある。」といった反論がいかに的外れであるかお分かりいただけたのではないかと思います。

 ロイス・マリー・ギプスは「21世紀への草の根ダイオキシン戦略」(kkゼスト2000)の中で次のように語っています。

 「ダイオキシンを産み出す事で利益を得る企業の政治的策謀と、企業からの圧力に抵抗しない政府の怠慢さは、ダイオキシンにまつわる話に欠かせない要素です。ダイオキシンの話は科学がいかに答えを出すのを怠ったか、企業がいかに私たちの社会で決定権をもち、政策決定をコントロールしているか、そして政府がいかに沈黙させられているか、という話であり、企業と政府によるデータ操作に加えて、虚偽の主張と捏造された研究という隠蔽、ウソ、だましが含まれています。一般市民にとってそれは先天異常、ガン、その他多くの健康障害による苦痛、苦しみ、怒り、そして 裏切りと憤懣の話です。さらに これはいかに企業が政府の政策に影響を与え、いかに両者の癒着が一般市民に影響を及ぼすかという金と権力の話です。」

 ちなみに1979年の列車脱線事故訴訟では、陪審員がモンサント社に対して、製品にダイオキシンが含まれていることを住民に警告することを怠ったとして原告65名に1620万ドルの懲罰的 損害賠償額(枯葉剤 訴訟では原告2万人に1800万ドル)を支払うよう裁定して1988年に終結しました。しかし、上告審では懲罰的損害賠償請求は却下されています。日本でも陪審員制度が始まりますが、凶悪犯罪に限られるということで、このような企業犯罪、国家犯罪に市民は裁定を下せないという状況はしばらく続きそうです。

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裁判員制度いいなんて保証などない。■アメリカのさしがね=「年次改革要望書」のせいで、企業犯罪には、裁判員はかかわれないように、おさえこまれていることからもわかるとおり、アメリカ企業が不利にならないように、凶悪犯罪に対して市民が「極刑」判決をくだすだろうことが期待されての導入だからな。■しかし、行政と司法と立法、つまり三権がそろって、企業犯罪への反発をごまかそうと画策する以上、被害者のみならず、メディアと市民の義憤・公憤がかたちをとらないとね。