■きのうの『薔薇、または陽だまりの猫』の記事を転載。■リンクは、あえてつけず、強調だけハラナが独断で。

2007-02-01 23:49:34
沖縄住民に押しつける「集団自決」責任/和田喜太郎
沖縄戦で通説とされていた、いわゆる「集団自決」命令は、実は「援護法」適用を受けたいがための方便で、軍命令があったのはウソだった。むしろ隊長らは自決を引き止めたほどだった。こんな新説がまことしやかに飛び交っている。
 この「方便説」や「捏造説」は現在、これら「集団自決」をめぐる大阪地裁での裁判(大江健三郎や岩波書店を被告)で論戦がくり広げられている。
 戦後、援護局の担当官で元大本営船舶参謀の証言(自衛隊幹部学校資料)では、軍命令があったとして、犠牲者は当初から戦闘協力者として戦没援護法の対象として認定していた。「軍命令がなかった」にもかかわらず、殊更に作為してウソを申請する必要はなかった。犠牲者の補償は困難とされていたが平均三ヶ月くらいで申請は受理されていた。これらは座間味村資料や琉球政府の援護担当職員の証言でも明らかにされている

 方便説の一つに、梅沢元隊長宛の宮村幸延氏(座間味助役の弟、援護係)の「念書」問題があり、「自決は梅沢隊長命令でなく当時の助役の命令でした」とする。
 ところがその後の証言で、朝から酒をのまされ泥酔状態のなかで、「一筆書いてくれ」「秘密にする、家族への弁明のため」と頼まれてつい書いてしまったという。また、この念書には日付の違う二種類があり、改ざんされた疑惑がある


 また、いわゆる「宮城初枝証言」も時間的に食い違いがある。「自決するので武器を下さい」に対し、梅沢隊長の「お帰り下さい」は、いつかまにか「はやまったことをするな、最後まで生き残って下さい」に変わっている。宮城初枝氏(当時青年団長)自身、弾薬箱を運ぶ際に、兵器担当軍曹から「立派に死になさい」と言われて手榴弾を受け取っている。
 これらの問題を神戸新聞記者(梅沢氏の友人)が取材、1987年4月同紙に「遺族補償得るため『隊長命』に」「梅沢さんぬれぎぬ晴らす」などの見出しで報道された。このなかで「村役場幹部Aさん」とするのが、前記宮村氏だった。

 原告側は曾野綾子氏の「ある神話の背景」を最大の論拠としているが、座間味や渡嘉敷でのこれら武器をめぐる問題でははっきりしない。「命令していない」のになぜ手榴弾が渡され、多くの住民が「自決」したのか原告側の反論は不明確だ。
 結局原告側は、座間味防衛隊隊長でもあった「宮里助役が命令した」として住民の「軍命令思いこみ説」に論点を変え、問題は住民側に責任ありと言い出した。

 「阿嘉島」の野田少佐や、座間味の前任小沢隊長らも「自決・玉砕」の訓示を行っており、軍命令があったことは歴然としている。渡嘉敷では、防衛隊員(多くは大陸兵役経験者、正規兵扱い)や安里巡査らが伝令となり、役場前に住民を集合させた。下士官の兵器軍曹は手榴弾(追加を含め計52発)を2発づつ配り、「1発は敵に、捕虜になると思ったらもう1発で自決せよ」と命令している。赤松隊長はそれを「全く知らなかった」「自決は住民が勝手にやった」と言い、これも大きな争点となっている。
 帝国軍隊では、すべての武器は「天皇がお貸し下されたもの」で武器の管理は厳重だった。それを最高責任者の隊長が管理・移動を「知らなかった」ではすまされない原告側はそこで座間味同様、「村長命令説」と軍命令「思いこみ説」を唱えだした。隊長らは自決命令していないが、村の有力者が相談し古波蔵村長が「自決命令」した。それを村民は「軍命令」と勘違いし「思いこんだ」とする論法だ。

 「鉄の暴風」著者の一人太田良博氏と曾野氏との「沖縄タイムス」紙上の論争があった。曾野氏は「伝文伝言取材」といい、太田氏は「直接取材」もしたとする。太田氏はこの武器問題を「命令説」の論拠とするが、曾野氏の反論はなかった。
 また、赤松元隊長は降伏勧告の使者に来た伊江島出身の女性を斬首処刑し、同様に計6人を処刑し、うち少年2人は隊長自身が惨殺した。一方、米兵が降伏勧告に来たら素直に応じ、部下より先に降伏したと太田氏は憤慨する。八原船舶参謀は特攻艇の出撃を期待していたが、赤松隊長は一切出撃せず艇を自ら破壊してしまい、これも太田氏は憤慨する。
 ところが原告側は、赤松隊長は大変な人格者だったなどと例証をあげている。沖縄復帰は元軍人や遺族会幹部らが主導し、復帰後は靖国賛美へと変遷する。我が子を殺して生き残った母親にとって、子どもが戦闘協力者として靖国に祀られることは、やるせない思いの中で救いでもある。そういう流れのなかで戦争体験の語り口も変遷してきたのではないかと、識者は分析する。

 当時「軍官民共生共死の一体化」は、沖縄第32軍の方針であり、軍の自決命令があったことは誰でも知っていた。「米軍に捕まれば男は八つ裂き、女は強姦される」「投降するな、捕虜になるな、玉砕せよ」と様々な儀式や「常会」で伝えられていた
 関東学院大林教授により、米公文書館から「慶良間列島作戦報告書」が発見された。
 渡嘉敷や座間味で異常な怪我人が多いことに米軍医が気づき、米軍は約百人の住民聞き取り調査をした。その結果日本軍の自決、玉砕命令があったことなど供述でわかった。これらは被告側証拠として提出された。

 岩波書店や大江健三郎ら被告の、沖縄「集団自決」をめぐる裁判も1月19日に第7回弁論を迎え、次回(3月30日)にはいよいよ証人尋問に移る。
 強制された「集団自決」は渡嘉敷329人、座間味284人とされるが、このほか慶留間53人、読谷チビチリガマ83人、伊江島や本当の前川など1000人以上が「集団死」し、個人を含めると数千人とも言われる。朝鮮人であることでスパイ視された「久米島の虐殺」もある。このほか降伏したり、降伏しかけてスパイとみなされて多くの住民が日本軍に殺害されている。

 「自決」とは一般的に武士や軍人が自らの責任をとって自殺すること言うがこの用語をめぐって色々意見がある。「集団自決」を始めに表現したのは「鉄の暴風」の著者で、のちに「うかつだった」と言い、後々これが靖国賛美に使われる。
 沖縄戦当時一般的には「玉砕」又は「玉砕命令」などと言われた。現在では「強制集団死」や「軍事的強制他殺」などと、その本質的な表現のこころみもある。
 何れにしても「命どう宝」--命を粗末にしてはならない、という土地柄で喜ろこん自殺したわけでない。捕まれば米兵に殺されると刷り込まれ、投降すれば通的行為(スパイ)として「友軍」に殺されるとすれば「玉砕」しかなかった。
 「いもや野菜勝手に摘むな」の軍命令で兵士すら処刑されるなか、ようやく「米軍は危害を加えない、食べ物もくれる」の噂がひろまり、必死の思いで「脱走」しやっと助かった住民もいた。米軍より日本軍の方が遙かに恐ろしかったのだ。

 曾野綾子氏は「ある神話の背景」改訂版で「マサダの自決」(西暦70年ユダヤ人960人が要塞で自決)のように「自決に誇りを持て」と言う。もう百年にも前に締結された戦争国際条約に違反し、アジアの民衆を殺戮し、自国の民間人まで戦争に巻き込んだうえ殺害した日本軍。それを賛美する曾野氏、この裁判を全面的支援する藤岡信勝氏ら自由主義史観研究会や「新しい教科書つくる会」などの動向は、侵略戦争を合理化する極めて政治的な意図をもち、老齢の原告を利用している。
 「従軍慰安婦」や「南京虐殺」はなかったキャンペーンの次にターゲットとしたのがこの「集団自決」問題だ。原告代理人は「大阪靖国訴訟」に介入して控訴審でかえって違憲判決を引き出した徳永弁護士らと、「百人斬り裁判」で全面敗訴した代理人ら34人が弁護団に連名する。
 これらは又、大江氏が特定の名をあげてないにも関わらず、あえて名誉毀損としたのも、同氏が護憲の呼びかけ人として目障りなのであろう。米軍再編と自衛隊一体化「戦争のできる国つくり」、有事法制と国民保護法制が進められるなかで、沖縄戦に象徴される「民衆を守らない軍隊」イメージをなんとしても払底しなければならない。これらは教科書改訂を含めた関係団体の決議要請文にも散見できる。


 原告側はとどのつまり「集団自決」の責任は、日本軍でなく「沖縄住民に責任がある」と主張する。事実は事実として尊重するが、立場によって解釈がまるで変わってしまうし事実の歪曲の問題もある。原告側は渡嘉敷や座間味の場合の命令の有無問題に閉じこめ、沖縄戦の日本軍と沖縄住民との全体像については無視しているかに見える。今後も注視していきたいが、以下のように被告大江、岩波側のサイトもある。原告側の主張については市販の産経発行『正論』その他右派系出版物で、その筋の論者の見解を散見することができる。ちなみに原告側は「えん罪裁判」など自称している。
◆大江:岩波裁判 http://www.sakai.zaq.ne.jp/okinawasen/
07/02/01 和田喜太郎

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曽野綾子氏らの議論っては、いろいろな意味であやしげなわけだ。■国家権力、およびその走狗としてはしりまわった層の犯罪をごまかそうという魂胆は、よわよわしい自我の産物である。いや、こわばった自我にしがみつかず、しなやかに現実に対応していくのなら、「よわよわしい自我」などと、ことさらにいうのは、おかしいんだが、近代的自我を中途半端にかたちづくると、国家の時空的正統性を信じるほかなくなり、その結果、神学的な曲芸をもって、歴史をデッチあげ擁護しなければいかなくなる。■あやしげな国家にすがりつく信仰心は、あわれで、みにくい知的不誠実をもたらす。
■安倍っちらの、「美しい国」論の、うすよごれた印象も、これと通底する。

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