毎日新聞 2007年2月25日 18時26分
センター試験:リスニング機器、性能劣るのを承知で採用
音声トラブルが相次いでいる大学入試センター試験(英語)のリスニングテストをめぐり、センター(東京)が、現行のICプレーヤーの性能が競合メーカーより劣ると認識しながら採用していたことが内部報告書で分かった。数百円の価格差を重視して採用したとみられる。しかし、報告書は同時に重大な問題点として、使い捨ての現行方式に懸念を示し、早急にプレーヤーの再利用を検討すべきだと「警告」していた。
メーカーと契約直前の03年12月にあった「個別音源機器類仕様策定委員会」の報告書によると、03年11月に国内大手3社から提案があった。1社は見積額が予定価格を上回るため検討対象外になり、残る2社の音質を示す「音声圧縮法」や価格などを比較検討した。

音質面では、採用されたプレーヤーについて「一世代前の音声圧縮法」とし、競合プレーヤーは「最近の標準的な圧縮法で音楽の再生にも用いることができ、音質は優れている」と記している。

再利用については、採用プレーヤーは「記録方式が独自でパソコンの入出力と互換がなく、再利用に大きな障害となる」と記述。競合プレーヤーは「パソコンと互換があり、デジタルカメラなどのメモリーに利用できる」と優位性を認めた。

ただ価格は、2600円と3520円で差があり「ぜいたくを言わなければ(使用)可能だから、文部科学省の英断がない限り2500円程度という予算的な制限から(採用)せざるを得ない」と結論づけている。

そのうえで、基本仕様に重大な問題点があるとして異例の「意見」を付記。「センター方式として(採用プレーヤーが)標準仕様になるのは避ける必要がある」とし「2000円以上の機器を1回の利用で処分することが許されるのかという批判を招くだろうから、プレーヤー本体を回収して3年程度使い回しにすることを早急に検討すべきだ」と求めた。

大学入試センター管理部は「3年契約の期間中はやむを得ないが、問題点や報告書の趣旨も踏まえて見直しに生かしたい」と話している。

採用されたプレーヤーはソニー製と見られ、テストで受験生から「聞こえづらい」「雑音が入る」などの苦情があった。導入初年の昨年は457人、今年は381人が再テストを受けた。【千代崎聖史】

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■Wikipedia によれば

英語(リスニング)について

受験生ひとりに一台ずつ配られたICプレイヤー(2006年度)
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2006年度から「外国語」で英語を選択した受験生には、「英語(リスニング)」の受験が必要となった。これは、「高校生は読み書きだけでなく、実用的な英語を身につけてほしい」という大学側の要望がある。当初は各会場のスピーカーで音声を流す案も検討されたが、設備面の問題や条件を均質にする配慮から、メモリーに録音された音声を再生するICプレーヤーによる「個別音源方式」に決まった。



受験生ひとりに一台ずつ配られたICプレイヤー(2007年度)
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リスニング試験は、80分の筆記試験後に行われ、解答時間30分・配点は50点となっている。ICプレーヤーは再生機能しかなく、巻き戻しや一時停止などはできない仕組みとなっている。なお、約2,000円相当のICプレーヤーは、試験終了後希望する者は持ち帰ることができる。また、受験生が持ち帰らなかったICプレーヤーは希望する高校などに配布され、再利用されている。


あらかじめイヤホンが差し込まれた状態で配布されたICプレーヤー(開封前の様子)
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当初、大学入試センターは、ICプレーヤーについて、「メーカーが出荷前に1台ごとに振動検査を行い、電池も新品を入れているため、途中で動かなくなる事態は考えられない」「プレーヤーは腰の高さから落として動作を確認しており、故障はまずない」と自信満々な姿勢を示していた。しかし、教育関係者などは、英語がセンター試験で受験者数がかなり多いことから、50万台以上の機械を使う試験で、1台も故障せず、1人の受験生も操作ミスをしないということが、果たしてあるだろうかとの疑問を呈していた。

ICプレーヤー本体
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2004年9月26日には、リスニングテストの「試行テスト」がセンター試験を利用する大学を会場として行われた(全国503大学・508会場)。受験対象となったのは、2006年に現役受験生となった当時の高校2年生で、希望者の中から抽選された約4万人が受験した。試行テストは、本番で試験を円滑に行うため、大学側に実施の手順に慣れてもらうことや、ICプレーヤーの性能確認(聞こえや作動具合、ヘッドホンとイヤホンの違い)などが主な目的であった。なお、試行テストの試験結果は受験者には通知されなかった。この試行テストでは、ICプレーヤーによる大きなトラブルは発生せず、「個別音源方式で円滑な試験実施は可能」と大学入試センターは判断した。

金メッキになったイヤホンプラグ
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しかし、教育関係者の個別音源方式に対する不安は現実のものとなり、東京など20都府県の試験会場で、ICプレーヤーの故障などが発生したとされて再テストが行われるというトラブルが相次いで発生した。約1100人の内1人にトラブルがあったとされ、三大予備校が実施したリスニング試験の模擬試験に比べるとトラブルの発生率が高かった。大学入試センター側の謝罪は無かったが、当時の文部科学大臣が陳謝する事態にまで発展してしまった。

2007年度は、前年度のトラブルを反省し、イヤホンを最初から装着するなどの対策を行ったが、227大学で少なくとも351人から「音声が聞き取りにくい」などとICプレーヤーの不具合があり、少なくとも381人が再テストを行った。

2006年度に使用されたICプレーヤーは、停止後に再度再生をするためには、リセットする必要があったが、2007年度に使用されたICプレイヤーは問題部分の再生が終了した後5分経過すれば、電池の抜き差しをしなくとも再度電源を入れ、再生することが可能になった。本体も塗装が変更されたほか、全てのボタン操作に2秒程度の長押しを必要とするようになった。その注意を促す為に、本体には光るまで長く押すとの表示がなされている。2006年度のものは、電池の残量が不足していても一時的に作動したが、2007年度のものは、ランプが点滅し作動できないようになった。また、配布の際、ホコリの付着を防ぐために音声メモリーを個別に包装している。イヤホンプラグも金メッキに塗装され、既に本体に接続された状態で配布された。

なお、大学入試センターは機密事項であることを理由に、ICプレイヤーがどこのメーカーのものであるかを公表していない。しかし、音声メモリーがメモリースティックであること、ソニー製の電池が使われていること、中の基板がミツミ電機製であることなどから、ソニーが大学入試センターと契約を結び、ミツミ電機に製造を委託しているのではないかと考えられている。

また、地球環境や資源保護の観点から、ICプレイヤーを使い捨てにしていることを問題視する専門家もいる。しかし、ICプレイヤーを繰り返し使用する場合と、使い捨てにする場合とではコストの面で大きな違いが出てくる。業者への輸送経費や、電池交換・動作確認・清掃などを考えても、直接受験料として受験生の負担になるコスト増は避けたいとの大学入試センターの意向が見られる。なお、韓国の大学修学能力試験では、以前は問題をFM放送を使って各試験会場に送信し、それぞれの校内放送で一斉に聞かせるという形式をとっていた。しかし、受信などでトラブルが発生したため、現在では問題が録音されているカセットテープを校内放送を使って一斉に聞かせる形式に切り替わっている。音量や音質についてのトラブルで、一部の会場で一時停止が行われるが、日本のような大規模なトラブルは発生していない。また、アメリカの大学進学適性試験では、ポータブルCDプレーヤーを受験者個人で用意させ、問題CDを聞かせるという形式をとっている。以前はカセットプレーヤーを持参させた。

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■でもって、これについては「意外に高かったセンター試験ICプレーヤーのコスト」という、技術屋さんらしい人物の論評がある。

2007年02月25日
MSN毎日新聞ニュースに、「センター試験:リスニング機器、性能劣るのを承知で採用」という記事が掲載されていました。

採用されたプレーヤーの音声圧縮法は世代遅れで、競合入札の方式は、最近の標準的な圧縮法で音楽の再生も可能で音質は優れている、と書かれています。標準的ということは、ATRACと比べてのAACということでしょうか。競合のほうはデジカメのメモリに流用可能ということなので、SDあたりですかね。

また、記事によれば、採用されたプレーヤーの見積価格が2600円と、私の予想額の1000円程度を大きく上回るものだったのはちょっとびっくり。なお、3年契約なので、もう1年はメモリースティックロムの採用、ということになりそうです。

この件については1月下旬にアエラの取材を受け、2月5日号の「リスニング不具合 ICプレーヤーの製造元」にわたしのコメントが掲載されています。お読みになったかたもいらっしゃるかもしれません。1ページものなので、コメントの多くは省かれていますが、ライターさんとのやり取りでこちらのコメントとして最終的に用意したものを、ここで掲載しておきます(貧乏性なのでもったいないため)。

● 分解した理由は、「技術的な興味からですね。ICプレーヤーは1年前だと1万円近い高級品。それが50万人という受験生に一度に配布されるわけですから、その中身がどういう構造になっているのか、そのコストと機能をどうやって実現しているのかに興味を持ちました。それと、これだけの台数のICプレーヤーをいったいどこが受注したのか、ということも」。
初代では基板にミツミという文字があったのでミツミ製か、メモリースティックが採用されていることから、その推進役であるソニーかな、と思いました。価格はメモリカードが付属しないので、1000円というところですかね。いまは999円のMP3プレーヤー(イヤフォンつき、メモリカードなし)というのがあるので。

● 中身を見た感想は、「メモリースティックロムを使っているところが非常にユニーク。メモリースティックとはソニーが規格を作ったメモリーカードで、しかもROMなので書き込みができない読み取り専用メモリです。またメモリースティックの中にあるデータはこのプレーヤー以外では読めないようになっています。改ざんや流出を防ぐためでしょう」

● さらに今年のセンター試験で使われたICプレーヤーも某所から入手。「外見は2006年モデルと比較してほとんど変化がないのですが、中身の心臓部である基板は2006年が2枚だったのに対して、今回は1枚。基板のサイズも小さくなっています。構造がシンプルになって、おそらく故障の可能性も減った、といった進化がうかがえます」

● 今年のセンター試験では、英語リスニング試験でトラブルがあり、「再開テスト」をおこなった人は、381人(今日現在の集計)。ICレコーダーの不具合率は0.07%程度と推測される「不具合の比率は通常のMP3プレーヤーと比べてかなり低いのではないでしょうか。しかし、不具合が起きない電子機器というのは存在しないので、必ず不良が起きるということを前提とした救済措置、対応をあらかじめ組み込んでおくべきなのだと思います」

● 個別のICプレーヤーを導入したことについて「受験会場のスピーカーはノイズが出たり、受験生の座る場所によって聞きづらい場所もある。そう考えると、個別のICプレーヤーは、今の状況ではもっとも正しい選択だと思います」。

● ただし、「正味30分のリスニングテストなのに、機械の説明時間が30分プラスされていた。2日目のテストをひかえた1日目で、その30分はけっこうな負担。便利な機械かもしれないが、ここまでして導入するべきか疑問がある」という受験生(本年度)の声があることは問題と考える。「(入試センターは)ICレコーダーの性能さえ完全にしておけば十分、と考えているのでは。ICプレーヤーは、いわば受験生という『お客さん』に有償で購入していただいている商品。となると、お客さん(ユーザー)が試験会場で使ったときに不満を抱かないよう、十分に注意することが必要です。一般の電化製品のユーザーサポートに当たる現場の試験官たちの、簡潔にわかりやすく取り扱いを説明できるスキルも必要になってくるでしょう」

● ICレコーダーは「各電機メーカーに、機能などのご提案をいただき、機能、価格ともに適切なものを採用しました」(入試センター)とのこと。「技術の専門家というより、家電製品やコンピュータなどの使い勝手に詳しい専門家などの意見をもっと聞くべきでしょう。また、『商品』であると考えれば、ICレコーダーは使いたくないという人には、たとえばスピーカーを使った別室を用意するなど、選択の余地を与えることも必要かもしれません」

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■しろうとめには、約?2500×50万台×3=?37億5千万という売り上げをソニーがかちとった過程に、なにやらあやしげなふんいきを感じとってしまう。■中古家電の新法が 消費者の安全なんかでなく、新品をかわせたいメイカーのおもわくを経済産業省すくいとろうと、でっちあげられたように、大学入試センター試験の英語という、日本最大の統一試験をとらえた利権のうたがいがないだろうか?
■「ICレコーダーの不具合率は0.07%程度と推測される「不具合の比率は通常のMP3プレーヤーと比べてかなり低いのではないでしょうか」と技術屋さんはいうが、同時に「不具合が起きない電子機器というのは存在しないので、必ず不良が起きるということを前提とした救済措置、対応をあらかじめ組み込んでおくべき」と、指摘されているとおり、それでなくても不安で神経質になるほかない受験生をくるしめ、くいものにするオトナたちという印象がぬぐえない。■毎年何百人も再テストとは、「例外的少数」ではすまされまい。