■文部科学大臣による「人権メタボ」発言をみてもわかるとおり、「メタボリックシンドローム(代謝症候群)」という術語は、医学用語というより、大衆的な知識といえるだろう。■しかし、大臣の不謹慎な発言にもしめされているとおり、それが相当いい加減な語感として流通しているらしいことも、いえそうだ。大衆的な用法が厳密な水準になるはずがないのは、当然だけれどもね。
■つぎにあげるのは、Wikipediaの項目の一部。

メタボリックシンドローム

メタボリックシンドローム(英 metabolic syndrome、代謝症候群とも)とは、内臓脂肪型肥満(内臓肥満・腹部肥満)に高血糖・高血圧・高脂血症のうち2つ以上を合併した状態。WHO、アメリカ合衆国、日本では診断基準が異なるため注意を要する。以前よりシンドロームX、死の四重奏、インスリン抵抗性症候群、マルチプルリスクファクター症候群、内臓脂肪症候群などと呼称されてきた病態を統合整理した概念である。
それぞれ単独でもリスクを高める要因であるが、これらが多数重積すると相乗的に動脈硬化性疾患の発生頻度が高まるため、リスク重積状態はハイリスク群として予防・治療の対象と考えられてきた。このようなリスク集積状態は、偶然に起きたとする考え方と、何かの共通基盤(内臓脂肪の蓄積・インスリン抵抗性・遺伝的背景など)に基づくという考え方があり、近年では特に内臓脂肪の蓄積による肥満が共通の基盤として着目されている。メタボリックシンドロームでは、内臓脂肪蓄積型肥満=男性型肥満ともいわれている上半身型肥満=リンゴ型肥満に対して注意が呼びかけられている(一方女性型肥満といわれている洋ナシ型肥満、これは下半身型肥満ともいわれ内臓肥満とはとらえられていない。以前はW/H比、ウェストヒップ比が議論されたこともある)。

しかし、日本の中年男性の半分近くがこの「症候群」またはその予備群に該当するものであり、果たして「疾患」として扱うのが妥当であるかどうか議論になっている[1]

経緯
1980年代前半まで、生活習慣病の三大要素(高血圧・糖代謝異常・脂質代謝異常)と内臓脂肪蓄積型肥満(いわゆるリンゴ型肥満)とは、ほぼ同時進行で悪化の過程をたどるが、あくまで個別の事象であるとの見方が主流だった。が、それらの密接な相関がReaven GMによって「Syndrome X」との研究名で報告され(1988年)、その翌年にKaplan NMによる「死の四重奏」と題する研究報告がなされたのを契機に、蓄積された内臓脂肪を“主犯”とする研究が活発化。2001年にWHO(世界保健機関)が『代謝症候群』という名称と、その診断基準を発表したことにより、一般に知られる病態名となった。


定義

日本基準(2005年)
日本動脈硬化学会、日本肥満学会、日本糖尿病学会など8学会から選出されたメンバーで構成された「メタボリックシンドローム診断基準検討委員会」が約1年間かけて検討・設定し、2005年4月8日に日本内科学会総会で発表した日本でのメタボリックシンドロームの暫定的な診断基準は以下の通り。

※「暫定的」としているのは、女性の腹囲の基準を男性より下げるべきであるなど基準値を見直す意見が内科医学会、循環器科学会などから出ており、近年中に微修正される見通しであるため(2006年7月現在)。

内臓脂肪型肥満
臍レベル腹部断面での内臓脂肪面積100cm²以上とする。ただし内臓脂肪面積を直接測定することは健康診断や日常臨床の場では容易ではないため、腹囲の測定により代用し、男性85cm以上、女性90cm以上を内臓脂肪型肥満と診断する。しかし、できれば腹部CT撮影等により内臓脂肪面積を精密に測定することが好ましい
上記に加え以下の3項目のうち2項目以上

高血糖
空腹時血糖110mg/dL以上
高血圧
収縮時血圧130mmHg以上か拡張期血圧85mmHg以上のいずれか、又はいずれも満たすもの
高脂血症
血清中性脂肪150mg/dL以上か、血清HDLコレステロール値40mg/dL未満のいずれか、又はいずれも満たすもの
(注意)診断基準には、当然入ってよさそうな血清LDLコレステロール値やBMIが含まれていないことに注意する。またここでいう「高脂血症」はTGとHDLで判断し、肥満は腹囲で判断している。なお血清LDLコレステロール値や確定診断されている糖尿病はメタボリックシンドロームで定義するまでもなく、動脈硬化の危険因子と考えられている。


IDF基準(2005年)
IDF(International Diabetes Federation、国際糖尿病連合会議)が2005年4月14日に発表した診断基準は以下の通り。

腹部肥満
腹囲男性94cm以上、女性80cm以上(ただし民族的な差異を認める)
上記に加え以下の4項目のうち2項目以上

高血糖
空腹時血糖100mg/dL以上
高血圧
収縮時血圧140mmHg以上か拡張期血圧90mmHg以上のいずれか、又はいずれも満たすもの
高トリグリセライド血症
血清中性脂肪150mg/dL以上
低HDLコレステロール血症
血清HDLコレステロール値男性40mg/dL未満、女性50mg/dL未満
内臓脂肪蓄積による腹部肥満が診断の必須項目であるという点で日本基準と同様だが、腹囲のカットオフ値が異なるほか、血糖値の上限がより厳しくなっている、脂質代謝異常の判断基準が2項目に分かれている、などの違いがある。


病態に対する概念
我が国では現在、「蓄積された内臓脂肪組織は様々なアディポサイトカイン(内分泌因子)を分泌し、その中のアディポネクチン、レプチン、TNF-α、ビスファチンなどの遺伝子発現レベルでの産生異常が代謝異常を引き起こし、動脈硬化などにつながる」とする大阪大学医学部チームの発表が、メタボリックシンドロームの概念として支持されている。

ただし、この疾患の概念や診断基準については、WHO、IDFなどの機関ごと、あるいは国ごとに微妙に異なる部分があり、相関的な疾患としてとらえること自体に異議を唱える学者グループも複数存在しているのが実情。これは主に、研究のアプローチや病態サンプルとした民族差による部分が大きい。


治療
【以下略】

-------------------------------------
■しかし、「しかし、日本の中年男性の半分近くがこの「症候群」またはその予備群に該当するものであり、果たして「疾患」として扱うのが妥当であるかどうか議論になっている[1]」わけだ。

東海大学の大櫛教授のコメント

メタボリックシンドロームのでたらめ

男性「ウエスト85cmで危険」はウソ!

中高年男性の半数が、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の疑い・・・。先日発表された厚生労働省の調査結果に、思わず自分のおなかをつまんでドキッとした人は少なくないだろう。日本では昨年4月、日本動脈硬化学会が中心になって、生活習慣病関連学会8学会が独自の診断基準を発表した。ところが、ウエスト85センチをメーンとするこの診断基準には「科学的な根拠がない」という批判が噴出している。
健康診断のデータ分析を長年続けている東海大学医学部の大櫛陽一教授は「診断基準というのは本来、医学的研究の統計判断に基づかなければ、科学的に根拠があるとは言えません。ところがメタボリック症候群については、米国などの一部を除いては、世界的にも統計学的に証明する研究は行われていません。日本では健診の基準値そのものがおかしいので、極めて低リスクでもメタボリック症候群とされてしまうのです」と言う。大櫛教授は、全国70万人の健康診断データを用いて、同学会の基準値を検証してみた。すると、さまざまな問題点が見つかったという。

掲 載 日 : 2006年05月26日
媒 体 名 : 週刊朝日



●「メタボリック症候群に科学的根拠なし!」(『週刊ポスト』5/25)
●「メタボリックシンドロームの“つくられ方”(1) 意外とあいまいな診断基準 」「診断基準がいっぱい」「正常と異常の線引きのあいまいさ」「メタボリックシンドロームという概念に潜むリスク


-------------------------------------
■しかも、「NHK『クローズアップ現代』で“メタボの真実”がカットされた」(『週刊ポスト』6/15)という奇怪な事実も。


NHK「クローズアップ現代」2006年7月19日(水)放送
メタボリックシンドロームの衝撃

今年5月、厚労省は生活習慣病のリスクを計る新しい基準に"メタボリック・シンドローム"を採用し、「男性の2人に1人、女性は5人に1人が生活習慣病の予備軍」と発表した。メタボリック・シンドロームは、昨年、日本内科学会が動脈硬化のリスクを計るために作った目安で、「高血圧」「高脂血症」「高血糖」以外に「腹囲」が診断項目となっている。男性の場合、腹囲は85?未満、女性の場合は90?未満が安全とされた。厚労省の発表以来、各地の自治体や流通・食品などのメーカーがメタボリック・シンドロームに注目した健康診断やビジネスを相次いで始めた。その一方で、この新基準の統計学上の問題点や取り扱いを巡る行政の対応に疑問の声もあがっている。どうすれば生活習慣病の予防ができるのか。有害なものを社会的に排除していく米国の取り組みも交えて検証する。
(NO.2271)

スタジオゲスト : 小出 五郎さん
    (科学ジャーナリスト)

-------------------------------------
■大櫛先生たちがのべているとおり、統一基準の設定があやしいし、危険だとおもう。■『読売』の以前の記事。

検査の基準値 男女別・年齢別 登場

96bead48.gif
 垂直跳びや握力など体力測定の基準値は男女別、年齢別になっているのに、コレステロールや血糖値など検査の基準値が一律に決められているのはなぜ? こんな疑問から、男女差や年齢を考慮した新しい検査の基準値が提唱されている。(田中秀一)

 コレステロールなどの基準値は現在、各分野の医学会が定めているが、多くは男女、年齢を問わない一律の数値となっている。

 これに対し、東海大医学部教授の大櫛陽一さん(医学教育情報学)は「検査の適正値は、性別や年齢によって異なる。高齢者に若い人と同じ基準値を適用すると、異常と判定される人が増えるなど問題が大きい」と指摘し、新たな基準値を提唱した。

 全国で健康診断を受けた約70万人から健康な人のデータを抽出、男女別、年齢別に解析し、数値の高い人と低い人を除く約95%の人が収まる範囲を適正な数値とする、国際的な方法で基準値を算出した。

コレステロール 既存の日本動脈硬化学会の基準では、総コレステロール値220以上で高コレステロール血症とされる。だが、大櫛さんは「高コレステロールは、若い人では心筋梗塞(こうそく)の要因になるが、年齢とともにその傾向は薄れ、70歳以上ではほとんど関係ない」と言う。

 そこで今回の基準では、20歳代前半こそ学会と同様220が正常の上限だが、50歳以上では男性が260、女性280程度とした。

 大櫛さんは、同様の大規模調査を行った三井記念病院(東京)総合健診センター所長の山門実さんらとともに、高コレステロールの薬物療法を行う目安となる数値を公表した。

血糖値
 今回の基準値は、男性は緩やかに、女性は厳しく設定されている。

 日本糖尿病学会の従来の診断基準では、正常な血糖値(空腹時)の上限は110未満とされている。ところが大櫛さんによると、これでは若い女性の糖尿病が見逃されるという。

 20?39歳の女性160人を調べたところ、空腹時血糖値が100?109と正常でも、ブドウ糖を摂取して2時間後に血糖値を測る負荷試験では、約6割に異常が見つかったからだ。空腹時血糖100未満では、負荷試験での異常は約2割にとどまった。大櫛さんは「若い女性の上限値は100未満に引き下げる必要がある」と話す。

肥満
 肥満は心筋梗塞や脳卒中の要因とされ、日本肥満学会は体重(キロ・グラム)を身長(メートル)の2乗で割ったBMI(体格指数)で25以上を肥満としている。だが、実際はやせている人ほど死亡率が高く、「中高年は、小太りの人が長生きできる」(大櫛さん)。ただ、若い男性は、BMIが25を超えると糖尿病になりやすい。

 そこで、「上限値」「目標値」の2種類の基準が設定された。上限値を超えた場合は精密検査を行い、目標値を超えたら定期的に経過を見る。中高年男性の上限はBMI28程度、目標値は25程度。

血圧
 高血圧の場合、「上限値」は、それを超えた場合に薬物療法を始める目安で、「目標値」を超えたら、運動や食事の改善を行う。



 今回の基準値については、大櫛さんの著書「検査値と病気 間違いだらけの診断基準」(太田出版)に詳しい。

(2006年6月18日 読売新聞)

-------------------------------------
■というか、もともと「生活習慣病」って改称の理由があやしかった。■「従来の「成人病」ではなく「生活習慣病」という名称を導入することを具申した厚生省公衆衛生審議会の会長、大谷藤郎氏(国際医療福祉大学学長、財団法人藤楓協会理事長)」の言い分を一部。

……成人病のことをドイツでは文明病と呼んでいるように、文明と成人病の関係は深いものがある。欧米の先進的な諸国では、肥満、喫煙、飲酒などが横ばい、あるいは改善傾向にあるが、わが国では近年、若年者や女性の喫煙、飲酒などが増加傾向にあり、憂慮すべきものがある。 

それが、個人の信念としての趣味嗜好にもとづくというのならともかく、正しい健康科学知識の欠如やその無視、戦後の道徳的規範の喪失による意志の弱さに引きずられた結果であることが多く、それに対する社会の反省も努力も不足している。 

成人病を生活習慣病に変えることは、医学として原因的な表現に改め、成人病という身体的にも社会的にも負担の重い疾患群が、加齢といった個人の努力外の不可抗力的な自然現象のためではなく、道徳的自己責任に帰せられる不摂生な生活習慣という原因によるものが大きいことを明確にさせ
、社会文明論的な視点からの問題提起でもあるといえる。

-------------------------------------
■要は、自己責任論=自業自得論なんだね。■わかい女性→中高年女性→わかい男性とスリム化運動(「ダイエット」)がいきつくところまで、いってしまったので、オジサマだけが、「ダイエット業界」(お医者さんと産業界)にとっての、最後の沃野ってことだよね。■健康を心配しているように深刻ぶった議論にみえるけど、侮蔑的な視線で包囲して、おカネもうけがしたいと(笑)。