■「ことば/権力/差別(新刊)」「ことば/権力/差別 2」「ことば/権力/差別 3」のつづき。■6章→5章とさかのぼってきたついでといってはなんだが、本書を代表する論考の第3弾として、木村護郎クリストフ氏による、「第4章 「言語=通貨」論再考―地域通貨論が言語の経済学に問いかけること」をとりあげる。■また、すごーくあいたけど(笑)。

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木村護郎クリストフ氏は、大著『言語にとって「人為性」とはなにか―言語構築と言語イデオロギー:ケルノウ語・ソルブ語を事例として』(三元社,2005年)をはじめとして、少数言語話者集団の動態や言語権の理論的考察などを専攻する言語学者・社会学者。わかくして多数の著書・論文をもち、雑誌『ことばと社会』(三元社,現在第10号+別冊2号)の編集委員をつとめるなど、新進気鋭の人材。■エスペランティストでもある。

■まずは、版元、三元社による目次を転載。
第4章 「言語=通貨」論再考―地域通貨論が言語の経済学に問いかけること  79
  ――――木村護郎クリストフ

1. 言語権と言語の経済学  79
2. 言語と通貨はどこが似ているのか  81
3. 言語の経済学に登場する通貨論のパターン  82
4. 地域通貨の背景と特徴  88
5. 地域通貨論の視点  92
6. 地域通貨と少数言語の連携は可能か  103
7. 言語の経済学の深化に向けて  104


■木村氏は、言語と貨幣とが、双方とも価値交換の媒介装置であるという、再三くりかえし指摘されてきた共通性だけでなく、通用範囲のひろさによって、序列化がなされてきたという点に着目する。■要は、通用範囲が世界大である英語とドルは最強であり、日本語と円は、日本列島とハワイ程度でしか通用しない、よわい存在である…等々と。■しかし、それなら、フロリアン・クルマス『ことばの経済学』(1993年,大修館書店)だの、井上史雄『日本語の値段』(2000年,大修館書店)といった、言語経済学なるしろもので、大半は議論ずみだ。■要は、陳腐な優勝劣敗論。安易な社会ダーウィニズムで、少数言語など単なる経済障壁、通訳・翻訳コストを要するやっかいものという結論しかみちびきえない。

■しかし、木村氏は、発想を逆転させる。地域通貨は、通用範囲がせまいから無意味なのか?と。■そうではなかろう。地域通貨が本格的に機能するかどうかはともかく、それが有効に流通するなら、通用範囲がせまいことは、なんらはずべきことではない。むしろ、せまい通用範囲のなかでのみ機能する独自の価値をおびるはずだと。■おなじことが、少数言語にもあてはまるのではないかと、木村氏はといかけるのだ。■これは、コロンブスのタマゴだ。地域限定の地域通貨同様、地域限定の少数言語は、地域独自の価値を通用させる不可欠の媒体になるというのだから。



■なお、木村氏には、主要なものだけでも、つぎのような業績がある。

1. ことばへの権利 ? 言語権とはなにか (三元社 、1999 )
2. Intentionale Eingriffe in den Sprachgebrauch ? Perspektiven und Probleme einer umfassenden Theoriebildung (Studien zur Interlinguistik, KAVA-PECH (Praha) 、2001 )
3. 少数言語に未来はあるか?言語復興の視点から (総合政策学の最先端??多様化・紛争・統合、慶應義塾大学出版会 、2003 )
4. 言語的近代を超えて?<多言語状況>を生きるために (明石書店 、2004 )
5. 批判的言語意識と異言語教育 (あえて英語偏重を問う(日本エスペラント学会公開シンポジウム(2001年、2002年)報告集) 、2004 )
6. なぜ二言語教育なのか?言語権の観点から (ろう教育と言語権?ろう児の人権救済申立の全容、明石書店 、2004 )
7. ソルブ?ドイツ語圏とスラヴ語圏のはざまで (講座 世界の先住民族?ファースト・ピープルズの現在?06 ヨーロッパ、明石書店 、2005 )
8. ドイツの諸言語法 (欧州諸国の言語法 ? 欧州統合と多言語主義、三元社 、2005 )
9. ドイツ語?「問題発見・解決」と「自学自修」 (外国語教育のリ・デザイン?慶應SFCの現場から、慶應義塾大学出版会 、2005 )
10. 言語にとって「人為性」とはなにか ? 言語構築と言語イデオロギー:ケルノウ語・ソルブ語を事例として (三元社 、2005 )
11. 「言語イデオロギー」、「移民言語政策」、「民族語・国際語・国際公用語」 (事典 日本の多言語社会、岩波書店 、2005 )
12. 「共生」への視点としての言語権―多言語的公共圏に向けて (「共生」の内実 ― 批判的社会言語学からの問いかけ 、2006 )
13. 言語における「自然」と「人為」―説明用語から分析対象へ(ことばとと社会10号、三元社、2007)


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