■経営コンサルタント大前研一氏の『「産業突然死」の時代の人生論』第87回
日本のお役所システムは無駄だらけ」の1と2を転載。
 
2007年7月25日
 年金といえば納付記録のずさんな管理にばかりが注目されているが、その陰に見過ごせない問題も隠れている。その一つが年金システムである。

 現在の年金のシステムは、社会保険庁がNTTデータに発注して出来上がったものだ。ところが具体的な利用契約を結ばずにNTTデータに発注していたことが明らかになり、柳沢厚生労働大臣はこの取引を見直すことを検討すると発表した。

 まずは下の図を見てほしい。これは社会保険庁が、NTTデータへ支払ったデータ通信料のグラフだ。2005年には、なんと840億円にも達している。
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 このデータ通信料とは何か。グラフの下にある注にあるように、社会保険庁の公的年金のオンラインシステムの著作権はNTTデータが保有している。そこでNTTデータは、「電話をしたら電話代を払うのと同様に、このシステムを使ったら使用料を払え」というわけで代金を請求しているのである。だからこれは通信料というよりも、ファシリティメンテナンス(設備の維持・改善)にかかる料金と言ったほうが実態に近い。

 ところが冷静に考えてみると、このオンラインシステムの著作権は、本当にNTTデータが所有しているものなのだろうか。ベースになっているのは、我々の税金で作ったものだ。国民の税金で作ったものなのに、現在はNTTデータが所有していることになっている。

 それでいて、この年金のシステムを使えば、チャリンチャリンとNTTデータにお金を払うことになっている。そのお金を支払っているのは国民だ。国民の税金で作ったものを国民が使うのに、お金を払う
。こう考えれば多くの国民は違和感を覚えるのではないだろうか。それどころか、そこにあるのは国民の重要な個人データベースである。これを一民間企業が所有する、そして国がその使用料を支払う、というのはそもそも個人情報保護法に照らしても問題があるのではないのか? 経緯はともあれ、このような契約関係は早急に正されなくてはならない。


40年前からの問題が9カ月で解決!?

 しかも、出来上がったシステムは、これまでの報道でもお分かりのように、非常にずさんかつお粗末なもので、問題がどんどん出てきている(社会保険庁職員のオペレーションの問題はもちろんあるとしても)。にもかかわらず社会保険庁はまだNTTデータにお金を払い続けているのだ。

 この取引を見直そうという柳沢厚生労働大臣の話は問題の根本をあいまいにしている。そもそも、このようなシステムを構築しようと考えたのは誰で、どのような経緯で一社のみの随意契約になっているのか、なぜシステムとデータの所有権が受注側にあるのか、なぜその使用料を国民が毎年払うことになってしまったのか、といったことについて国民に実体を明らかにし、またその責任はいずこにあるのか解明しなくてはいけない。

 NTTデータもこの問題の深刻さを理解していると見える。まず参院選前で焦っている安倍首相が1年以内に年金データの解明を約束している。名寄せをして完全なデータにする、いや、それを3カ月前倒しする、などと矢継ぎ早に発表している。しかもその作業を、こともあろうに当のNTTデータに依頼している。5000万人分の帰属不明のデータを解明して整合性のあるものにする経費が10億円だ、ということになった。

 いままでに1兆2000億円以上投入して構築したシステムの問題は40年前から指摘されてきたが、担当者ではいかんともしがたかった問題である。その解決が「10億円で1年間」「いや9カ月で解決する」というのはまやかしであろう。もしそんなことができるなら、いままでの経費を正当化できないだろう。

 そもそも失われたデータには復旧するために必要なアドレスやIDが付いていない可能性が大なので、作業そのものができないのではないかとも言われている。その作業の見積もりが10億円というのも、かなり恣意的なものだ。それが「高い!」という世論におびえてNTTデータは利益を度外視して7億円でやります、と急きょ発表している。いずれもちゃんとした積算に基づかない、いい加減な数字で、かつまた苦し紛れの言い逃れに過ぎないとわたしは見ている。

 実はわたし自身も小さいながらこのようなシステム会社とデータ入力を行う会社を経営している。またそうした業界を、長い間コンサルタントとして、かなり広くまた深く見てきた。そうした経験から、こと年金のシステムとデータに関しては、政府あるいはNTTデータの発表したことには真実のかけらもないと見ておく方がよいのではないかとわたしは思っている。

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■このNTTデータの「全国の社会保険事務所を結ぶネットワークシステム」への参入は、「電算化はNTTデータに全面委託し、現在、庁内にはSE(システムエンジニア)が存在しない」といった異様な事態にまで たちいたっている。■こういった体質事態が異常といえるが、大前さんが整理した
〔これらほとんどは、断片的には新聞紙上などで指摘ずみだとおもう〕問題点は、ほとんどビョーキというほかない性格だとおもわれる。

■?税金が、独占的に事業をうけおった一業者に恒常的に巨額というほかない水準でながれこんでいる。■競争もなければ、システムの不充分さも検討されず、ただ独占的に利益をえている官財のユチャクしかみてとれない。■しかも、これらへの疑念があがると、当局は、よくわかっている業者をかえるとタイヘンだ式の、よくあるゴマカシ答弁をおこなっている。
■?公的な機関があつめた個人情報を一民間企業が独占的にデータ化し、それに対して著作権に類するものを主張しているようだ。■本来これらは、公的機関だけが占有すべきものであって、民間企業がかかえこむような性格ではない。
■?大前氏ものべているとおり、網羅的に保存されているべきデータが大量に消失しているらしい。その責任が社会保険庁のシステムにあり、NTTデータにはないにしても、復旧が短期間かつ小額のコストでおわるかのようなデマカセを、くるしまぎれにくちにするとは、責任のがれもいいところだ。

■以上の問題は、社会保険庁および厚生省時代からの官僚システム、そしてそれにまかせきりで検討・改善をはからなかった歴代の内閣の責任だということは、あきらかだが、こと安倍政権に責任がないというのは、まちがっている。■『なごなぐ雑記』の「アベ政権による“自爆テロ”=詭弁考(追記あり)」のパロディ画像があきらかにしているとおり、小池百合子大臣をはじめとして、安倍政権は窮地におちいったことをおしかえそうと、卑劣な詭弁を弄している。
■歴代政府の「しりぬぐい」をさせたれているといっても、「小泉劇場」をはじめとして、日本列島住民の「だめんず・うぉ?か?」症候群=自民党依存症のおかげで「最高権力者」の座にのぼりつめた安倍首相と、そのおともだち閣僚たちが、「負の遺産」を選択的にしょわないなんて、そんな つごうのいいことがゆるされるはずがない。■「まがわるかった」「とんだ逆風にさらされている」というのは、カンちがいなのだ。

■ちなみに、大前さんが提示したグラフのデータが、『しんぶん赤旗』と『日本経済新聞』というのは、わらえる。政府・財界から徹底的に距離をおいている、ともかくおもてむきは清廉潔白で一貫している「代々木レッズ」と、財界の御用新聞とよばれる経済紙筆頭が、NTTデータへの異様な資金のながれを証明しているというのは、皮肉というほかない。■それだけ、この問題の病根はふかいということだ。


●「トラックバック・ピープル 安倍晋三