■『夕凪の街 桜の国』シリーズ前便つづき。■祖母にしかられた七波は、ついでに 「ほいで? あんたは大丈夫なん 七波」「鼻血出したんじゃろう?」とといただされる〔p.49〕。■シリーズ第1回、および映画版第9回でもふれたとおり、被爆二世におおいかぶさる、体内(胎内)被曝ないし遺伝子上の不安である。■実際には、七波は映画版第9回で指摘したとおり、少年野球の指導者のミスで、ノックを顔面直撃をくらって、出血しただけなのだが(笑)。■しかし、当事者にとっては、あまりわらいごとにならない話題である。
■ただ、「夕凪の街」と一線を画し、一転してコメディにきりかわった「桜の国」では、徹頭徹尾あかるいキャラとしてえがかれる七波であるため*、祖母の といかけは、単なる懸念の否定におわらない。■「ああ…あばあ様 急にめまいが」などと、おふざけモードで、かおをしかめたり(笑)。
■しかし、祖母のフジミが、また くえない役者というか、いいキャラで、応戦する。急にしゃがみこんで、「……… ………」と無言で、かおをおおい。七波が心配して「おばあちゃん? ごめん うそだよ」と、かたにてをやると、無言のまま、ほほを強烈につねる。ぎゅう??というおおきな擬態語、七波のおおきくゆがんだほほ、虚空でバタつく両腕が、そのキツさを表現している。

* たとえば、愛称「ゴエモン」をキャラとして積極的にうけいれてか、七波は、時代劇調のセリフを多用する。「なに 旅に出ようと思いましてな では さらばじゃ」〔p.44〕など。

■そのあと、(唐突に屋外から、ベランダ(七波)/室内(フジミ)と場面がとんでしまう=p.49=が)フジミ「そんなこと わかっとる めまいがするんは こっちです」というセリフに対して、七波は「はかられた…」と、五右衛門風のひとりごとをくちにする。■しかし、小学生にすぎない七波には、旭ら オトナたちの深刻な話題はつたえられていない。フジミの検査結果は おもわしくなく、前便もかいたとおり、そのなつには他界する。

■この「桜の国」の第一部は、さらりとコメディタッチで物語が展開するが、原爆症のかげが、つねにつきまとうのが特徴である。■このヘンは、映画版とおおきな差異だろう。

■ちなみに、母の京花の死去で父子家庭+祖母となった石川家だが、学校からかえった七波は典型的な「カギっ子」である。「ただいまー」と団地のドアをあけるが返答はない。学級担任あてに毎日記入して提出をくりかえすらしい「連絡帳」の「できごと」欄は、「おばあちゃんは弟と病院です。お父さんは会社です。わたしは野球の練習です。」という表現が毎日ならぶ。■記入がおわると少年野球の練習にむかう七波は、つねに陽性にみえるが、孤独な時間帯を毎日あじわっていたことがえがかれる
〔pp.40-1〕
■現在は現役引退をして専業主婦らしい母親が戸建ての住宅でまつ東子とは、おおきな家庭環境の差である。■受験勉強のプレッシャーをくちにする東子にむかって、「うち 母さんいなくてよかったよー おばあちゃんだけでも怖いのに」というが
〔p.45〕、本心ではなかろう。

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