■「政治家の世襲禁止は職業選択の自由に反する?」など、「世襲議員」問題の一連の文章の続編。
■いわゆる「世襲政治家」は、ウィキペディア「世襲政治家一覧」にもあるとおり、別に自民党だけの現象ではない。■しかし、世襲政治家のほとんどは、自民党と民主党に所属、ないし所属した経歴をもつ層にふくまれるといってよい。しかも鳩山由紀夫幹事長のように、もと自民党議員だったり、羽田雄一郎議員のように、もと自民党議員の父親をもつような、「自民党別働隊」のような層がぶあつくいるわけで、これら世襲の民主党議員の大半は、準「自民党」といってさしつかえない。
■それはともかく、安倍改造内閣については、「世襲議員で固めた安倍改造内閣党執行部」〔『木走日記』〕や「アベ改造内閣名簿(資料)」〔『なごなぐ雑記』〕、「閣僚名簿にラーニングプアが見える日本社会」〔『佐藤秀の徒然\{?。?}/ワカリマシェン』〕のように、閣僚の相当部分が世襲議員であることに着目する記事がいくつかみられる。
■歴代首相については、佐藤秀氏が、安倍政権成立まえに「超世襲同士の総裁選」〔2006/08/13〕という記事で、一目瞭然の傾向を分析してみせた。

学歴から世襲、そして超世襲へ。戦後歴代総理大臣の学歴、世襲の有無を辿ると、本当は実力主義から既得権主義(超世襲=貴族)へと戦前回帰しているんじゃなかろうか。

以下、戦後の宰相の学歴・世襲の有無。(世)は世襲議員、(準世)は議員ではないが、町長などの政治家の子供、(超世)は父、祖父にらに首相・大臣経験者がいる。東大法は太字世襲はイタリック
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幣原喜重郎=東京大学法学部(世)
片山哲=東京大学法学部
芦田均=東京大学法学部(世)
吉田茂=東京大学法科大学(世)
鳩山一郎=東京大学英法科(世)

石橋湛山=早稲田大学大学部
岸信介=東京大学法学部
池田勇人=京都大学
佐藤栄作=東京大学法学部
田中角栄=中央工学校土木課
三木武夫=明治大学法学部
福田赳夫=東京大学法学部
大平正芳=東京商科大学
鈴木善幸=農林省水産講習所
中曽根康弘=東京大学法学部
竹下登=早稲田大学第一商学部
宇野宗佑=高卒、神戸商業大学中退
海部俊樹=早稲田大学第二法学部
宮澤喜一=東京大学法学部(超世)
細川護煕=上智大学法学部(超世)
羽田孜=成城大学経済学部(世)

村山富市=明治大学専門部政治経済科
橋本龍太郎=慶應義塾大学法学部政治学科(世)
小渕恵三=早稲田大学大学院政治学研究科(世)
森喜朗=早稲田大学第二商学部(準世)
小泉純一郎=慶應義塾大学経済学部(超世)

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(次の人)
安倍晋三=成蹊大学法学部(超世)
麻生太郎=学習院大学政経学部(超世)
谷垣禎一=東京大学法学部(超世)
※脱落・福田康夫=早稲田大学政経学部(超世)

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戦後の最初の10人のうち東大法は7人を占めていた。
しかし、最近の10人は、7人が私学。谷垣氏が今のところ、有り得ないとなると、8人連続私学となりそうだ。
そして、世襲は貴族院議員の名残りがあった終戦直後に多く見られたが、その後は学歴、東大法学部を中心として、国立大⇒官僚コースが目立つ。
ところが、バブル以降、世襲が目立ち始め、最近の宰相は、行きがかり上なってしまった村山富市を除けば、7人連続世襲だ。今回の総裁選は更にグレードアップして、3人+脱落1人とも超世襲世代だ。8人連続私学、実質8人連続世襲が確実な情勢だ。
東大法中心の学歴本位から実力本位に変わったなどというのは実は幻想で、本当は学歴だけではどうにもならない新貴族の復活・再生が起きているような希ガス。戦後学歴・実力でのし上がった世代を含めて新貴族を構成するようになったのだ。その最高のシンボルのような人が首相になろうとしている。その人のキャッチフレーズがリチャレンジなのだから、もうジョークみたいなもんだ。
少なくとも学歴や公務員試験は機会平等が担保されている。経済的理由による教育機会不平等という側面はさておいて。競争社会と言われながら、一番頭は固定化される。
……

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■経済格差による教育格差→学歴格差→経歴格差という連鎖の分裂状況は、戦前および戦後直後なら身分格差として歴然としていた。■それが鳩山一郎らまでの東大法学部卒の首相輩出に象徴的にでている。
石橋湛山海部俊樹という歴代首相は、佐藤氏のいうような、「国立大⇒官僚コース」で説明できるような陣容ではない。■しかし、1956年くれ?91年11月まで、35年にもわたって、世襲議員でない首相が連続した時代だったという事実にはかわりがない。■そして、それは、そののち村山富市内閣改造内閣(1994/06/30?96/01/11)という、1年半の例外的な時期をのぞいた計15年ちかくがことごとく世襲議員の首相だというのは、異様な事態といえる。


■おなじく佐藤氏の「閣僚名簿にラーニングプアが見える日本社会」の今回の改造内閣の分析も一部転載。

<総理>安倍晋三 3世、学士
<総務相>増田寛也 外様、建設省、学士
<法務相>鳩山邦夫 4世、学士
<外相>町村信孝 2世、通産省、学士
<財務相>額賀福志郎 2世、学士
<文部科学相>伊吹文明 1世、大蔵省、学士
<厚生労働相>舛添要一  1世、学士
<農林水産相>遠藤武彦 1世、県公務員、学士
<経済産業相>甘利明 2世、学士
<国土交通相>冬柴鉄三 1世、学士
<環境相>鴨下一郎 1世、学士
<防衛相>高村正彦 2世、学士
<官房長官>与謝野馨  1世、学士
<国家公安委員長>泉信也 1世、学士
<沖縄・北方担当相>岸田文雄  2世、宮澤喜一の親戚 学士
<金融・行政改革担当相>渡辺喜美 2世、学士
<経済財政相>大田弘子 外様、学士
<少子化担当相>上川陽子  1世 学士

とまあ、結果は議員でない外様を除くと世襲率50%、修士以上率0%。…


■しかし、『木走日記』「世襲議員で固めた安倍改造内閣党執行部」が着目するとおり、「幹事長に麻生太郎外相(麻生派)、政調会長に石原伸晃幹事長代理(無派閥)、総務会長に二階俊博国会対策委員長(二階派)を起用する党三役…すべてが100%世襲執行部」という構図からすると、首脳部がいずれも私立大学・官僚/研究者経験(つまり、専門家集団内部での修行期間)なしの世襲議員であり、それをとりまく閣僚には、非世襲系の旧帝国大学卒と医師弁護士等専門職が動員されているという構図がはっきりみてとれる。■世襲率が一見たかそうにみえないが、内実はどうしてどうして。束ね役のジェネラリストは世襲のボンボンで、各領域のスペシャリストは一代でなりあがった勉強家たち。この「分業」は、おぞましい気がする。
■佐藤氏が以前、歌舞伎界など伝統芸能と同様の人気競争が政界にはじまりつつあると警告した点は、いまだ無効なわくぐみになっていない。むしろ、不気味な潜行・深化をすすめている気がしてくる。



■ちなみに佐藤氏、細部では「いさみあし」。■たとえば「意外なのは、東京大学助教授を務めた舛添厚生労働大臣も実は学士とまり。大田弘子経済財政相なんて、経済学修士とか博士ぽく見えないことないのにやはり学士。元々大学では経済学専攻でないので経済学学士ですらない」とあるが、舛添要一氏の「法学部政治学科卒業後、ヨーロッパ政治史を専攻し、助手として研究室に入った。その後ヨーロッパに留学し、パリ大学現代国際関係史研究所客員研究員、ジュネーブ高等国際政治研究所客員研究員などを経て東京大学教養学部助教授」という、かれの経歴は、大学院に進学するにおよばずという、東大法学部の「超特急コース」を意味しているので、大ハズし。
■大田弘子氏のばあいは「1981年 財団法人 生命保険文化センター研究員(-93年)」をどうよむかだが、企業の研究所が大学院みたいな修行機関としての機能をはたすことはいうまでもない。■もちろん、社会学部卒だから経済学の専門的トレーニングをうけていないことになるかどうかは、別問題。修士論文をかきあげればそれで研究者のタマゴになれるってわけでもないし、要は専門家によませうる論文・研究書があるかどうか〔興味がないひとなんで、しらべてないけど〕。 政策研究大学院大学ってところは、大学院生しか在籍していない大学院大学だが、ここはヘッポコ大学ではない。ここで野心的な大学院生(基本は、中央・地方の官僚)をまえに演習などをおこなったときに、実力がないなら、大ハジをかくはず。■形式的な学歴にとらわれすぎると、実力をみあやまるとおもう。医学博士に あやしげな連中がわんさといることは、以前かいたし(笑)。■宮台真司氏がなげいているように、東大の一番できる層が大学院に進学しなくなったという定着した傾向についても、のべておくことはムダでないだろう。
■以前、「素養のたりない政治家」「なに、自民党のお歴々は憲法学の専門家だったのか?」といった文章で、官僚や政治家が世界のなかでは突出して低学歴なのに、専門家づらするのは ちょっとカンちがいなんじゃないか? とツッコミをいれておいたし、そこでの大意に修正の必要はみとめないがね。

●「増補版Wikipedia:安倍晋三
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