■だいぶまえにかいた「イデオロギー装置としての大相撲=スポーツからみた日本社会18」になぞらえて、「イデオロギー装置としての講道館柔道」といった、挑発的な表題をつけてもいいかとおもうぐらい、ナショナリズムがらみの話題。■『AFP』の記事から。〔リンクは、ウィキペディアにさしかえてある〕

山下泰裕氏
国際柔道連盟の理事選に落選

2007年09月11日 21:00 発信地:東京

【9月11日 AFP】国際柔道連盟(Internation Judo Federation:IJF)総会がブラジルのリオデジャネイロで開催され、教育・コーチング理事での再選を目指した山下泰裕(Yasuhiro Yamashita)氏がアルジェリアのモハメド・メリジャ(Mohamed Meridja)氏との投票の結果61-123で大敗し落選した。これによりIJF執行部に日本人がいなくなるのは、日本がIJFに加盟して以来56年の歴史の中で初めてとなる。

 1984年のロサンゼルス五輪で金メダルを獲得した山下氏は、2003年に信任投票でIJF理事に初当選し、競技者のマナー向上や発展途上国での柔道の普及活動などに取り組んできたが、IJF会長を務めていた朴容晟(Park Yong-Sung)氏の突然の辞任を受け、マリアス・ビゼール(Marius Vizer)IJF新会長に擁立されたメリジャ氏に勝利することは出来なかった。
 総会後に日本のメディアからのインタビューに応じた山下氏は、「(再選を逃したことについて)今回の投票ではビゼール会長に負けたと思います。予想したよりも得票の差は深刻でした。これにより日本が情報を得ることが難しくなるでしょう。私は日本が世界の傾向に追いつく為に努力しなければならないことを恐れています」と語り、日本人理事の不在により、さらなるルール改正が行われることへの懸念を示した。

 また、山下氏の落選を受けて日本の読売新聞(Yomiuri Shimbun)は、「日本の声が国際舞台に届かなくなることは避けられない」と報じるなど、今後日本の発言力の低下を危惧した。今まで柔道のルール改正は、延長戦の導入やカラー柔道着着用などが改正されてきた。特に1995年に改正されたカラー柔道着着用は、テレビで選手を追うのが容易になるとの理由から、欧州の役員たちは一方の選手に青い柔道着を着るべきだと主張。これを受けて日本は従来通り両選手共に白い柔道着を着るべきだと反対したが、結局日本の反対を押し切りルールは改正された。今後、欧州の役員たちがルール改正で議題に挙げるものとしては、「一本」や「技あり」などの呼称の廃止に伴うポイント化がルール改正において優先される可能性がある。

 しかし、日本の朝日新聞(Asahi Shimbun)は、日本人が執行役員に一人もいないとはいえ、国際大会におけるテレビの放映権料や有力なスポンサー企業を抱える日本をIJFが軽視することは出来ないだろうと報じている。(c)AFP/Shigemi Sato

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■『朝日』の一連の記事をみても、山下氏落選までの経緯は、関係者のあいだで、話題の焦点だったことがわかる。


●「国際柔連、日本人ゼロの危機 山下氏、険しい再選(asahi.com 2007年09月01日10時58分)
●「国際柔道連盟の朴会長が辞任 山下理事の再選厳しく(asahi.com 2007年09月07日23時19分)
●「会長代理に欧州連盟のビゼール氏 国際柔道連盟(asahi.com 2007年09月09日09時19分)
●「国際柔道連盟新会長にビゼール氏(asahi.com 2007年09月11日01時16分)
●「山下氏、国際柔連理事選で大敗 執行部から日本人消える(asahi.com 2007年09月11日10時12分)
●「国際柔道連盟 理事増員し、「本家」の日本に打診(asahi.com 2007年09月12日07時52分)
●「国際柔連理事に上村春樹氏 増枠で「日本人ゼロ」回避(asahi.com 2007年09月12日12時14分)

【柔道】国際柔道連盟が
「指名理事」に上村春樹氏を選出

 【リオデジャネイロ(ブラジル)11日=周伝進之亮】国際柔道連盟(IJF)は、当地で開いた理事会で、マリアス・ビゼール新会長が新たに指名した議決権を持たない「指名理事」8人を承認、日本から全日本柔道連盟(全柔連)の上村春樹専務理事(56)が選ばれた。これで理事会は計19人で構成される。

 日本は10日のIJF総会で再選を目指した山下泰裕教育・コーチング理事が落選、1952年の加盟以来初めて執行部から日本人がいなくなったが、これで日本人不在は回避される。指名理事は理事会への出席、発言は認められるが、議決権はない。

 指名を受けた上村氏は「(全柔連の)嘉納行光会長と相談する」と即答を避けたが、「柔道界の正しい発展に貢献したい気持ちはある」と前向きの姿勢をみせた。役職は大会運営に携わるスポーツディレクターとなる見込みで、「1人ではできないので、何人かでチームをつくって対応したい」。

 国際化と商業化を推進するビゼール会長は理事会を拡大。柔道の「本家」であり、主要なスポンサーや放映権料にかかわる日本を重視し、上村氏を指名した。

■国際柔道連盟(IJF)
 1952年に発足。理事会、委員会、コミッショナーから構成される。IJFの公式大会は夏季五輪、世界選手権、世界Jr.選手権、W杯国別対抗戦の4つ。加盟国・地域は05年現在で195カ国。

■理事会
 IJF理事会は会長、副会長5人、事務総長、財務総長、スポーツ理事、審判理事、教育・コーチング理事の計11人で構成される。副会長は各大陸柔道連盟総会で選出されるが、その他の理事はIJF総会で選ばれる。

◆マリアス・ビゼール国際柔道連盟会長
 「柔道を発展させていくうえで、日本の力は欠かせない。今後は大会の数が多くなるので、運営を仕切る役割を上村氏に担ってもらいたい」


■日本周辺の柔道関係者からすれば、ヨーロッパ発祥のスポーツでも、自分たちに有利なルール改訂をおこなうなど、さかんに政治的にうごきたがる欧州関係者が「本家」をおいだしにかかるなど、実に身勝手けしからん、といった いきどおりがうずまいていることだろう。■「ippon」「wazaari」など、これまでの試合形式(ルール)と不可分の呼称の廃止とともに、レスリングなどと同様の点数制への移行などが予想され、カラー柔道着導入などよりもつよい反発があるだけでなく、北京オリンピックでのメダル獲得競争で非常に不利になるのではないかといった危機感がみちあふれている。■しかし、講道館柔道による試合規則が整備されたのは、19世紀末。現行ルールの直接の起源は20世紀なかばのようだから、1世紀・半世紀といった「伝統」でしかない。■しかも、これらは国際化がすすむ以前の「ローカル・ルール」にすぎまい。国際化=普及活動を必死にはかってきた関係者が講道館柔道からの「伝統」に固執するのは、自己矛盾というものだろう。そんなに「国技」意識がたかいのなら、大相撲のようにローカル・ルール厳守の「文化的鎖国」体制をとおすほかない。
■しかし、「「のろい」としての大和魂」というエッセイ*が指摘するとおり、講道館柔道の創設者の加納治五郎が「日本人初のIOC委員となり、…1936年のIOC会議で1940年に東京へのオリンピック(後に戦争の激化により返上)招致」した遺志は、戦後の東京オリンピックにひきつがれ、実施競技のひとつに柔道がくわわるが、そこで無差別級金メダルをオランダ人柔道家アントン・ヘーシンクにさらわれるという屈辱をあじわっている。■つまり、オリンピックの正式種目に登場した大会で、《すでに、世界最強の柔道家は講道館柔道直系の日本人選手ではないらしい》と「証明」されてしまった歴史的事実は、実に象徴的だ。■これは、講道館柔道関係者にとっては、衝撃的にみえるだろうが、皮肉にも東アジア的教育思想として「出藍の誉れ」の実現であり、ローカルな武道としての柔道が「世界のJudo」であることを立証した瞬間だった。
■また、おなじエッセイがかいているとおり、柔術の直系は、講道館柔道ではなくて、むしろブラジリアン柔術であるという皮肉な歴史的事実もみのがせない**。■自分たちだけが、古武術の技法・理念の忠実な継承者であるかのような自意識(「本家」「宗主国」イメージ)は有害であるだけでなく、歴史にまなばない はずかしい誤解・誤認でしかない。

■たしかに、柔道着の すべり具合ってのは、微妙な問題だね。レスリングとちがって、組手が決定的だから。■しかし、オートバイ・アニメ・カラオケのような「応用種目」でなく、大相撲や歌舞伎のようなオリエンタリズムの対象でもなく、世界標準化して「輸出品目」に昇格した
〔強引な「ルール改正」をしてまでも、優位にたちたい。「宗主国」から主導権をうばいたい、とかんがえさせるまでに、いたった〕「世界のJudo」は、一応「ジャパン・オリジナル」として、むねをはるべきでしょ?


■たとえば、世界でもっとも人気のあるスポーツだろうサッカーの直接の発祥地であるイングランドが「本国」づらして、ルール改訂で主導権をにぎろうなどと策動していないだろうことをみれば、当然だ。■イングランドをかかえるイギリスは、資本主義や帝国主義などの政治経済上の理念や、ダーウィニズム・『資本論』など思潮上の歴史的産物とともに、サッカーを世界中に「輸出」し、何十億人もの愛好者をもたらした事実を、ひそかにほこりにしていることだろう。■「宗主国」ではないにしろ「世界三大バレエ団のひとつ」とされる英国ロイヤル・バレエ団が、主役に日本人ダンサーをえらびだしたことがある」など、外国人ダンサーめじろおし なんてのも、柔道とは、えらいちがいだね。■朝青龍などモンゴル人力士イジメをくりかえして、レベルがおちかねない大相撲などとならんで、日本人のムラ社会ぶりは、サッカーあたりから つきくずししかないか?



* ましこ・ひでのり『日本人という自画像』(三元社 2002年 p.178)
** ちなみに、前掲書ではふれられていないが、ブラジリアン柔術の創始者である前田光世が講道館柔道の直系であり、「嘉納治五郎、講道館四天王とは違い古流柔術の経験はないとされる」といわれるところからしても、現在の講道館柔道の競技者たちの主流意識が、どれほど講道館草創期にはあった古流柔術と連続性をもったゆたかを継承しなかったかは、重要だ。皮肉なことに、こういった、「そぎおとし」過程が、スポーツとしての競技柔道を世界的存在にしたともいえるが。もしブラジリアン柔術ににた古流柔術的要素をいろこくのこしていたら、「みるスポーツ」としての いまのような世界的人気はえられなかっただろう。ブラジリアン柔術は、「バーリトゥード」のように、サディスティックな観客むけの、「あいてを徹底的にしめあげ、つぶす」といった、アマチュア・スポーツにはなじみにくい方向性においこまないかぎり、「みるスポーツ」としては、地味すぎるから。



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