■事物(情報や動物・ヒトをふくめた心身なども全部こみで)の売買に際して、当事者のどちらが優位なのかは、経済学者が「需給関係(商品の相対的希少性)」「限界効用逓減の法則(「連用」は、いずれ あきる)」などと、おおかた定番の普遍的構造を定式化ずみなんだとおもう。■しかし、そういった、こぎれいな経済学モデルで実際の なまみの人間が規定されつくされているかといえば、とてもそうおもえない。
■いや、そりゃ、労働力であろうが 結婚相手であろうが、巨視的には「需給関係」で「相場」がきまり、それ応ずるかたちで当事者のちから関係も決するってのは、まちがっていないだろうけど、具体的局面では、こういった「法則」に反する事象が、結構あるような気がする。

■たとえば、「お客様は神様です」っていう、芸能人の名言がある。そして、これは、客商売というか、事物をうるがわにとっての基本姿勢だとうけとめられている。■それなら、「うるがわは、基本的に劣位」っていう構造があるって、経験則上みとめているようなもんじゃないか? ■で、実際、労働力であれ、性的商品であれ、おおくの「商品」は、買い手優位の構造が基本だとおもう。要は、超好景気時の労働力不足とか、極度の品薄で「闇市」が実体経済をになっているとか、特殊な状況でないかぎり、「買い手優位が基本」だと。■まず、本来「需給関係」っていう市場原理からすれば、長期的には売買は平等な力関係のはずなのに、どうもそうではない非対称形ではないか? って問題自体をかんがえる意味がありそうだ。
■じゃ、なぜ「売り手」は 劣位か? ■おそらくそれは、「限界効用逓減の法則(「連用」は、いずれ あきる)」とか、「流行現象」とか、「事物の相対的過剰」ってのが、致命的な値崩れをひきおこす よわみをかかえているからだとおもう。■要は、砂漠とか飢餓とか、特殊な超欠乏状態でないかぎり、「売り手」は、「もういらない」「まにあっている」「あきた」といった「殺し文句」に決定的によわいたちばにあるのだ。■その典型例は、労働力とか芸能関係者だろう。
■もちろん、「企業家が巨万の富を手にするのは、膨大な商品をうりはらったからではないか?」といったソボクな疑問がだされそうだ。■しかし、企業家の大半は挫折し、投下した資本は むなしくきえさるのだ。企業家が「ハイリスク・ハイリターン」をしのいで成功するというのは、まさに、千や万にひとつ。■しかも、「企業家が巨万の富を手にする」時点でも、「流行消滅」や「過当競争」といったリスクがしのびよっているし、営業最前線からはなれた企業家が、危機感・恐怖感をわすれているだけで、営業最前線でたたかわされている要員たちは、いつまでたっても「お客様は神様です」の世界からはなれられない。■天才的営業マンなどは、もみてをしながら、ひそかにほくそえみ、顧客をものわらいにしているかもしれないが、ほとんどの営業要員は、うえから「営業成績」をせまられながらも、「お客様は神様です」の普遍的原則のドロぬまで、のたうちまわっているとおもわれる。

■かんがえてみると、原油とか、一時の鉄鋼とか、「売り手」の方がえらそうという業界はすくない。そして、原油のような、長期にわたって、「売り手」がその相対的優位を維持している業界はほとんどないようにおもわれる。■性的商品であろうが、高額商品であろうが、ある階層・階級・国民にとって、「高嶺の花」であろうが、それを苦もなく入手する富裕層・特権層がかならず実在するのであり
〔でなければ、市場が成立しない〕それら富裕層・特権層からすれば、あらゆる「高級品」も、「もういらない」「まにあっている」「あきた」といった対象に充分なりえる。そういった富裕層・特権層のまえでは、いかなる「高級品」の提供者も、単なる「業者」にすぎないのだ。

■このようにかんがえてくると、原油のような、長期にわたって、「売り手」がその相対的優位を維持している「商品」の本質がなんなのか、みえてくる。■要は、代替物がほとんどなく
〔原油のばあいは、天然ガスなど、競合する「ライバル商品」は、ごくわずか〕、しかもそれが、大衆的な依存症的誘引をもっているという点だ。■下位文化であれば、いろいろ具体例をあげることが可能だろう。麻薬タバコアルコールなど、それこそ依存症的大衆を市場として確保した商品群、原油など先進文明地域の大衆の生活基盤をがんじがらめにしてしまったエネルギー源・素材である。

■もうひとつは、顧客を依存症的に支配するというよりは、顧客のよわみにつけこんだ、おどしの商売。いわゆる「不安商品」である。■「英会話」とか「大学・大学院」といった学歴など、権威化した知識商品群、健康・美容などへの不安・願望をすくいとった医学・薬学など専門知識の独占業界、「みかじめ料」とか「雑誌購読料」といった形式で商店や会社の不安につけこむ暴力団関係者など。■これらは、消費者がわが弱気になっており、基本が「売り手市場」になっている「殿様商売」がおおい
〔もちろん「過当競争」とか、業界内での覇権争いは激烈かもしれない〕


■つまり、性的商品をふくめた労働力をうるがわが みじめであるという基本的劣位は、たしかに悲惨な構図なんだが、「売り手市場」が成立している業界には、ロクな商品がないんじゃないかということだ。■だって、依存症か恐怖・不安に つけこんでいるわけでしょ? ■してみると、「売り手が弱気」というのは、まんざらわるい構造でもないかもしれないのだね。