■被告全員の無罪が確定した03年の鹿児島県議選をめぐるいわゆる「公職選挙法違反事件」デッチアゲのてんまつ、続報。■インターネット新聞『JANJAN』の記事を一部転載。ただし、実行犯の実名をふせてある。

「志布志事件」はなぜ起きたのか
─取調べの「可視化」を求めて─
2007/10/31
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 「踏み字」を強要した●●●●警部補には3ヵ月間減給10分の1、志布志警察署(当時)の黒健治署長は本部長注意、違法・不当な取調べを続けた捜査主任・●●●●警部は所属長訓戒という大甘の「処分」、これで事件の“幕引き”を許してはならない。とりわけ●●警部補は、すでに国家賠償請求訴訟において賠償を命じる判決が下され、かつ特別公務員暴行凌虐容疑で告発され取調べを受けている身である。この間、責任を追及する世論が強まるなか、8月末に「一身上の理由」により辞職願を提出して受理された。身内を庇い続け、退職金の土産までつけて懲戒免職を逃れさせる警察当局の処遇は、誰もが納得しない。このままでは事件の再発防止どころか、日本の民主主義にとって重大な危機である。

 事件の当事者である志布志の中山信一さんを訪ね、事件の真相と闇に包まれた本質部分についてお話を伺った。
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地域のしがらみのなかで警察がつくった事件
 ──最初に、「志布志事件」の背景についてお伺いいたします。この事件は、警察・検察の組織ぐるみのでっち上げ犯罪なのか、あるいは森義夫県議会議員と癒着していたといわれている●●警部個人の暴走と見るべきなのでしょうか。
 中山 二つの要素があったのだと思います。地方はしがらみがとても多いのですが、そういう地域のしがらみと事件を作った●●警部が一つになって起きたのだと思います。裁判の中で、●●警部は議員と20年来の親交があり「鞄持ち」のような存在であったという証言もありました。今回の事件は、100人体制で捜査を行なっているのですから、他の警察官の人たちは彼にだまされていたのだと思います。また検察も、彼がつくった警察の調書を完全に信じてしまったのでしょう。
 地域のしがらみのなかで警察が作った事件であり、自民党多数のなかで膿が溜まっていたところに、私が議会に出てくると困ることがあったのでしょう。懐部落という小さな集落に住む本当に素朴な人間に狙いをつけて事件を作り上げ、どうしても私をつぶしたいという意図で作られたのです。
 全国には多くのえん罪事件がありますが、普通のえん罪事件は「あった」事件ですが、今回の事件は「作った」事件です。「ない」事件が、作られたのです。警察は、事件の発端を明確にしていませんし、謝罪もしていません。昨日の新聞に鹿児島県警の人事異動が報じられていましたが、異動うんぬんで済む問題ではないのです。作られたこの事件の捜査を誰かが指揮したわけですから、そこを追及しないとなりません。それなくしては、この事件は終わらないと思います。

 ──森県議会議員が当時の選挙で落選していたのなら、●●警部の力を借りて中山さんを逮捕し辞職させ繰り上げ当選を果たすというシナリオはあると思うのですが、彼は4年前の選挙では当選していました。中山さんを陥れようとする狙いが分からないのですが。

 中山 もともと土建業の経歴をもつ人ですから、基本的には公共事業がらみでしょう。また彼の「鞄持ち」をしている別の議員の存在もあります。
 私は、今まで公共事業の仕事配分などは公平にすべきだと主張してきました。ですから、私が議会に出てくることに違和感があったのでしょう。私は、家業で米や焼酎を扱っていますが、飲食業の人たちなどとのしがらみをすべて断っています。「中山が議会に入ったら大変なことになる」、「おれに任せ」といったようなところが、見え隠れします。
 アリバイがなく事件現場もない事件を、検察は調べもせずに警察のいうことを100%鵜呑みにしてしまいました。いかに警察・検察がもろいかを露呈しました。私は、今までもこういう事件が作られてきたのではないかという気がします。過去の議員の経歴を調べてみましたが、この地域で、1回で当選を果たした人はほとんどいないのです。いま思えば、警察との関係で、何らかの流れができていたような気がしてならないのです。いままでは、約20万の大隅地区に弁護士が1人しかいなかったのです。いまは3人になりましたが、長年警察とでき合っていたような気がします。

「1回でもいいから認めてくれ」と土下座
 警察は、私に対して“買収があったこと”について、ひとつも調べないのです。責任、責任、そればかりの話で、まず私をやめさせることが第一でした。家内はかなり厳しく調べられたのですが、肝心な私を捕まえているのですから、家内はどうでもいいじゃないですか。警察も人間ですから、普通は二人も捕まえたら家族が崩壊してしまうくらいのことは考えるでしょう。警察は、そういう無茶を通して事件をつくり、逮捕してみたら後には引けなくなった、というのが事件の真相だと思います。

 ──新聞記事で見ましたが、警察は中山さんに「罪を認めてくれ」と土下座して頼んだという報道がありました。これは、どういう状況のときのことですか。

 中山 取り調べのときに、家内が罪を認めていると聞かされたのです。実は家内の父親は血圧が高く63歳のときに脳梗塞で倒れていますので、私は家内の体調が取り返しのつかないことになると心配しました。「1回でも認めたら家内は釈放できますよ」と言われましたので、嘘はつきたくないと思いながらも、家族のことを考えて警察のいうとおりに認めたのです。そのあと弁護士さんが来たときに、「うちの家内が認めているのは本当ですか」と聞いたら、「そんなことはない」といわれてほっとしました。
 夜の調べで●●警部が来たとき、私が「お前はなんちゅうこというんか」「まったく嘘だらけで、これならとことんやるで」と言いましたら、●●警部が土下座をして「1回でもいいから認めてくれ」といったのです。
 その時私は知らなかったのですが、警察の人事が変わることになっていたようです。引継ぎがある中で、別の警察官も事実ではない自白を知っていたのではないでしょうか。次の日、検察の調べのときに、私はそのことをありのままに話しました。
 私は、警察を信頼してこの地域で23年間もボランティアとして交通安全に協力してきましたが、信用は完全に失墜しました。

 ──関係者の処分については、常識では考えられないほど甘いものでした。川畑さんに「踏み字」をさせた●●警部補が減給10分の1を3ヵ月だけ、黒署長と●●警部については注意とか訓戒といった痛くも痒くもない処分です。しかも県警本部長は、それが重い処置であるといっています。
 今後、事件を教訓にしてどうすべきかを考えたときに、こういう軽すぎる処分では話にならないと思います。

 中山 こういう軽い処分がまかり通ってはいけません。そして、警察の内部をしっかりとチェックする外部の機関がないことが問題です。今は、身内の監査機関でしかありません。
 先般の(東京・国分寺の)警察官の発砲事件にしても、わかっていても身内だから調べたがらなかったですね。警察は外に対しては厳しく、しかも事件を作り上げたりまでしますが、身内には手付かずであることをこの事件は証明しました。

明日、皆さんに起こってもおかしくない事件
 ──今までのえん罪事件は、捜査をしていく段階で誤りに気付きながらも警察・検察の面子で引き返すことができずに起きてきましたが、最近は中山さんの事件に代表されるように、ないものをつくってしまう「でっち上げ事件」が非常に増えたように思います。

 中山 それは、警察官の質の低下にあるような気がします。今の警察官は、昔のように自転車や単車で細かく現場を歩かないじゃないですか。ただパトカーで走るだけで、しかも他人のタレコミ情報を基にするだけです。なんでも一緒だと思いますが、現場を見ずに仕事をすること自体がおかしいと思います。

 ──川畑さんは、ご自身の車に「取調べの可視化」とペイントしてキャンペーンをされています。この事件を教訓に今後を考えるときに、警察の取調べに録画・録音を導入していくことは欠かせないと思います。

 中山 もうすぐ民間人を含めた新しい裁判員制度が始まりますから、それまでに可視化を導入しないと、またえん罪が増えると思うのです。調書は書きたい放題なのが現実ですから、検察が必要としたところだけの録画を見せれば、誰でもたいがい信用してしまうではないですか。最初から最後まで録画して、その人の顔が見えるようにすべきです。そうすれば、その表情で分かります。部分的可視化ではまた簡単にこういう事件が起きますし、逆に危ない方向へ進むでしょう。
……

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■?「取調べの可視化」キャンペーンは当然。これを機に一気にすすめないと。
■?「鹿児島県議選公選法違反事件」は個人的暴走じゃないでしょ?などでのべたとおり、警部補・警部たちの個人的暴走と、それをかくそうとした組織犯罪は、別個の事件として糾明しないと。
■?以前の警察はちゃんとしていたが、最近レベルが急低下したといった、印象論は、やめにしよう。単に個人的な記憶がゆがんでいて、過去を美化した結果にすぎないかもしれない。■「今の警察官は、昔のように自転車や単車で細かく現場を歩かない」という傾向がみとめらるとしてもだ。■でっちあげなら、戦前さんざんやらかして、何人もの人間を死においやってきた。それらが、現場をこまかくあるいて捜査するといった古典的手法で修正されたなんてことは、きいたことがないぞ。

■被害者が、こんな意識のまま、モラル・水準の低下といった印象論でかたっているかぎり、組織犯罪の本質的構造は、いつまでも糾明されないだろう。