■基本的に研究者以外の進路がみつけづらい、人文・社会系の大学院博士課程の市場原理的な巨視的矛盾をシリーズでおってきたが、そういった、ある種「ユトリ」の世界への、ハイリスクな投企・突進というもいうべき世界と対照的に、国家的に実務上の専門家を養成するのだとうたっているのが、医師国家試験の合格予備校としての医学部医学科とか、司法試験合格者のための司法研修所といった制度だろう。
■これらに代表される学校・研修所制度は、基本的に「到達度」確認装置であり、市場原理に即した「イスとりゲーム」ではない。■しかし、何度も問題にした法科大学院は、そうではない。合格率4わりといった結果がなにより「雄弁」にかたるとおり、どうみても「イスとりゲーム」である。
■そんな、一人前の法律家のタマゴになれるかどうか、なんら保証のない制度でおきたのが、司法試験考査委員から勤務校大学院生へモレたらしい試験情報。■医師国家試験や歯科医師国家試験での情報漏出より、ずっと悪質だろう。


出題、事前に知りメール 
司法試験考査委員の元慶大教授

2007年11月11日

 新司法試験の出題と採点を担当する法務省の「司法試験考査委員」だった元慶応義塾大法科大学院教授の植村栄治氏(58)=8月に依願退職=が、試験1カ月前の今年4月、教え子の学生たちに流したメールの中で「重要判例」と紹介した最高裁判例について、本試験に出題される予定を事前に知っていたことがわかった。別の考査委員から事前に聞いていたことを植村氏が朝日新聞の取材に認めた。同氏は試験問題漏洩(ろうえい)の意図はなかったと否認しているが、多くの法科大学院の教授らは「明らかに秘密漏洩。国家公務員法の守秘義務違反にあたる」と批判している。

植村栄治元慶応大学法科大学院教授が
司法試験1カ月前に流したメールの文面
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 植村氏は行政法を専門とし、昨年11月、法務大臣により司法試験(公法系)の考査委員に任命された。今年4月11日、慶応大学の法科大学院の百数十人の学生にメールで「平成18年度重要判例解説」が刊行されたことを紹介。「そのうち行政法関係で重要そうな判例を幾つか選んで判旨ポイントを作りました」と述べて六つの判例を示し、「あと1月(ひとつき)、直前の追い込みをがんばって下さい!」と書き添えた。六つの判例のうち、憲法の租税法律主義と国民健康保険料の関係を論じた昨年3月の最高裁判例が、5月15日に実施された本試験で、短答式の問題の素材となった。
 その後、考査委員には自粛するよう要請されている受験指導を植村氏が行っていたことが発覚。6月29日、植村氏は考査委員を解任された。ただ、法務省が出した処分の発表文では、「判例要旨をとりまとめたものなどを受験生に送付したこと」などを解任理由にしているが、植村氏が事前に短答式の問題を知っていたことは触れていなかった。法務省は8月、設問そのものを示したわけではないなどとして、慶応の受験生に有利な結果が出たとは言えないとし、再試験をしないことを決めた。

 植村氏は今月8日に朝日新聞の取材に応じ、メールを送った時点で、最高裁判例が本試験に出題される認識があったと認めた。法務省によると、憲法や行政法を出題範囲とする公法系の問題を作る過程で、憲法を専門とする別の考査委員から、その判例を出題すると聞いていたという。

 植村氏は4月11日のメールについて、「重要なので試験にかかわらず知っておいて欲しくて紹介したが、『(試験に)出るよ』とは書かなかった」と弁解した。

 この問題の正答率は、慶応の受験生が26.57%だったのに対し、慶応以外は4.52ポイント下回る22.05%。公法系の短答式は40問。朝日新聞が入手した前半20問の正答率比較グラフで難問を比べると、この問題での慶応の正答率の高さが目立つ。

 こうした事実関係は、法務省も把握しているが「受験生であれば当然知っているべき判例。事前にメールで示しても『出題に関連する』とは明示しておらず、漏洩には当たらない」としている。

 複数の法律家は「4人に1人も正解していない。そのような難問で他の受験生よりポイントが高いということは、メールが慶応の受験生に有利に働いたということだ」と指摘する。

 8日開かれた参議院法務委員会では、鳩山法相が「出題された問題を見て(判例を)知っているか知らないかは重大な境目。とんでもないメールだ」と答弁し、再調査する意向を示した。同委員会では今後、植村氏の参考人招致を検討する。

 植村氏の行為を巡っては、全国の弁護士や大学教員ら33人が8月、「事実関係を明らかにするべきだ」として国家公務員法違反(守秘義務違反)の疑いで東京地検に告発している。

 法務省は今回の問題を受け、08年の考査委員のうち法科大学院教員の数を大幅に減らす方針を決めた。

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■慶応の受験生が不自然に点数がたかいわけで、メールが事実上おしえたことになる構造を証明しているようなものだ。■慶応の受験生を、すくなくとも、平均点までけずって、合格者をきめないと、不公平だよね。はっきりいって、慶応は、来年うけられないようにするとか、処罰しないとまずいでしょ?


■しかし、本質的問題は、こういった一部の考査委員の不祥事とか、それにともなう特定大学の有利・不利といった次元にはない。■なにより、考査委員が一部にしろ、現に法科大学院に勤務する大学教員からえらばれている点自体が根本的なまちがいだ。

■公務員などの清廉潔白問題でくりかえしもちだしてきた故事成句「瓜田李下」。
■大学入試センター試験とか教員採用試験とか、毎年定番の範囲がくりかえしだされるような空間では、問題そのものが事前にモレないかぎり、「受益」層がとびぬけて有利にははたらかないだろう。「予想問題」的な訓練は、まいとしくりかえさえされていて、いわば、司法試験の従来の出題に対して、予備校が「予想」「演習」をくりかえしていたようにね。■しかし、現役の高校の先生が大学入試センターの作問委員だったら、どうなるだろう。一部の先生は、勤務校の受験生にもらしたくなるだろうし、実際に勤務校の受験結果が、その期間に不自然によかったら、一般的な受験指導を徹底した結果として合格実績があがったにしても、それをすんなり周囲にうけとめてもらえるはずがなかろう。
■法務省の姿勢は、なんのことはない、自分たちの失敗をごまかそうとしているにすぎない。不正の温床をつくっておきながら、その防止策をかんがえておかなかったという点のね。
■当局は、人材がたりないとかいいだすのかもしれないが、だったら、法科大学院の先生方の人材はたりているのかね?


■本来到達度試験であるべき資格試験のはずが、合格率が4わり程度(高校から4年制大学に進学するようなものだ)と、依然として業界市場を前提にした「イスとりゲーム」をやめる気が当局にないこと自体が、致命的な欠陥である。■20歳代中盤世代の3年間(すくなくとも2年間)という、当事者にとって決定的な時期を浪費させるような教育制度として大学院が設置されていることへの反省が、当局や法科大学院関係者には、欠如している。
■要するに、法務省など法科大学院制度を整備したひとびとには、充分な当事者能力がなかったってことだ。

■もともと、アメリカのような訴訟社会に対応できるように法律家を大量育成しなければといった、美名はあったけど、その内実は全然整備されないまま「みきり発車」してしまったと。■検察官・判事が絶望的にたりないのは、よくわかるが、大量育成した法律家のタマゴがねらいどおりに検察官・判事を志望してくれるような制度づくりにも失敗しているようだし。■なにからなにまで、機能不全。そして、わかものの人生をおおきくくるわせる。人文・社会系の博士課程より、ずっとずっと悪質。相撲協会同様、スキャンダルがでないと、たたかれないが、システム全体がおかしなものなのだ。その意味で、情報漏えいは、致命的矛盾の氷山の一角。



●ウィキペディア「植村栄治
●Google検索「“植村栄治”」
●「 平成19年新司法試験に対する措置について」(法務省2007/08/03)
●「慶應義塾 新司法試験考査委員を解任された慶應義塾大学大学院法務研究科教員に対する対応について」(慶応大学2007/08/03)
●日記内「ロースクール」関連記事